追跡Ⅶ
流石に三人組も相手が冒険者ではなく、派遣されてきた正規兵ということに気付いたようだ。しかし、それでも彼らの目に宿った邪な光は衰えることを知らない。無精髭男が肩越しに後ろの二人へと合図を送るのが勇輝に見えた。
「悪いな。騒ぎを起こすつもりは――――大有りだ、ごらぁ!!」
無精髭男が思いきり肩で兵を突き飛ばすと同時に、七丸へと男たちの腕が伸びる。
客の悲鳴が店内に轟く中、勇輝と僧正は伸びて来る四本の腕が七丸に届くよりも先に、男たちへと拳と蹴りを叩きこんだ。
鈍い音と共に男たちが地面に尻をぶつけて顔を顰める。さらに勇輝が追い打ちをかけようとするが、背後から店員の声が響いた。
「兄さん、どきな!」
「――――!」
振り返ると同時に店員の意図を察して、勇輝は七丸を抱きかかえて脇へと避ける。
「てめぇ、よくも――――って、あっちゃちゃちゃ!?」
やや小太りな男が片膝を着いて、そのまま勇輝へと突進しようとしていた。しかし、最初の一歩を踏み出すよりも先に、湯呑へ注がれていた熱いお湯がカウンター越しに彼らの頭上へと降り注いだ。
幾ら頭に血が上って熱くなっていたとはいえ、先程まで沸騰していたであろうお湯の物理的な熱さには到底敵わない。頭や顔を掌で擦って何とかお湯を振り払おうと身を捩る。
「くそがっ! ぶっ殺してやる!」
だが、完全に戦意を挫くには至らなかったのか。今度は、細身の男が刀を抜いて勇輝へと狙いを定める。八相から袈裟切りに繰り出そうとする動きが見えた勇輝は、一歩間合いを詰めて鳩尾へと拳を叩き込もうと考えた。
その矢先に視界の端に誰かが飛び込んでくるのが見える。
「(――――早いっ!?)」
無精髭男を押さえ込んでいた兵の上を跳び越え、一瞬で勇輝の目の前に滑り込む。しかし、それで止まるような細身の男ではない。怒りに染まった形相で力のままに刀を振るう。
「刀の扱いが、雑です」
目の前に入って来た人物は両手を広げると、半歩踏み込んで刀の勢いを完全に殺してしまう。
「ぐっ……たかが紐如きで刀を止められるとっ!?」
「刀の知識も少ないのですか。刀が泣いています」
ねじり鉢巻きのようになっている紐を鍔元に押し当てて防ぐと、左手を引いて刀を脇へと逸らしてしまう。そこに加えて、左手を離したかと思うと右手を振り抜いていく。
結果、細身の男の両目辺りを紐が強打した。
「があっ!?」
思わず刀を取り落とし、目を抑えて蹲る。
隣で見ていた小太りな男もその姿を見て、息を呑んで大人しくなった。
「協力感謝する。だが、あまり無理はしないように」
無精髭男を拘束した兵たちが、残りの二人を縛り上げようと縄を持って近付いて来る。助けに入った人物へ感謝と共に忠告を口にした。
「いえ、この程度、鎌鼬の方がよほど手強いです。怪我をする方が難しい」
そう呟いた少女は、勇輝たちへと振り返る。
ポニーテールにした髪がふわりと浮き上がり、後方へと流れて行った。
「驚かせて失礼しました。ギルドから尾行していたこの者らを監視していた者です。誰かに危害を加えようとするまで動くことができなかったのですが、お怪我はありませんでしたか?」
「は、はい。七丸も大丈夫だったよな?」
勇輝の問いかけに、七丸は助けに入った少女に目を奪われながらも、何とか首を上下に振る。
「お食事中、申し訳ございませんが、一度、ギルドの方に来ていただいてもよろしいですか? 昼食を終えてからでも構いませんので」
「僧正さん。どうしますか?」
「この者らが何故、我らを――――いや、七丸を襲ったのかをはっきりさせておかねばならぬからな。致し方あるまい。それに拒否したらしたで、面倒なことになりかねないだろう」
僧正が少女をじっと見つめる。
「その通りです。できることなら手荒な真似はしたくありません。内守勇輝とその師である僧正と名乗る方。外で待っているので、食事が終わったら声をかけてください」
名乗ってもいないのに自分の名が少女の口から出て来て、勇輝は動揺を隠せなかった。その表情に少女は僅かに微笑むと二名の兵に礼を言って、店を出て行く。
「――――あの身のこなし。西園寺の手の者だな」
僧正が勇輝に聞こえるかどうかという小さな声で呟いた。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




