追跡Ⅳ
洞津のあちこちに派遣された兵たちは点在して警備に当たっているが、特に多くいるのはやはり検問所の前だろう。
数百人の甲冑を纏った兵が整列し、今にも戦闘を始めるのではないかという緊迫した空気と迫力があった。
ファンメル国の使節団。しかも、第一王女の来訪となれば、警備に力を入れるのは当然。前日であるにも拘わらず、この場所の警備だけは交代しながら夜通し続けられる。
そして、本番ともなれば、更にここへ増員されて、道は封鎖されることになるはずだ。
「ふむ、明日までは特に何事もなく過ごせると良いのだが……おい、今の内に飯を済ませてしまおう。二刻なんぞあっという間に過ぎてしまうからな」
「わかってるよ。そんなに急かすな」
警備を交代した男たちが、表情を崩して持ち場を離れていく。逆に、警備の任に着いた者たちは、皆一様に表情が引き締まり、精悍な顔つきへと変化した。
やはり、前日ということもあってか。流石に交代した後は、まだ彼らも余裕がある雰囲気を感じさせていた。
「よし、俺らも――――ん?」
そんな中、一人の兵は背後から急に呼びかけられて、仲間の元へと踏み出した足を止めて振り返る。
「すいません。少し道をお聞きしたいのですが、よろしいですか?」
「はぁ、自分もこの辺りの地理には詳しくはないが、聞くだけで聞こう」
男が二人に、少女が一人。
男は片方が他二人よりも年が上に見える。父親が息子と娘を連れて歩いている、にしては少しばかり異様な出で立ちであった。
「(この男は町人のようにも見受けられるが、後ろの二人はどちらかというと冒険者か? 一体、どんな組み合わせだ?)」
僧正と背後にいる勇輝と七丸をもう一度見て、僅かに目を細める。
「(何をしだすかと思えば、急に任務終わりの武士に話しかけるとかあるか!?)」
驚愕しながらも、兵の疑惑の視線を回避するため、後頭部をかきながら苦笑いする勇輝。反応が不安だった七丸も、この時ばかりは空気を読んで僧正と勇輝を不思議そうに見ているだけだった。
「実はある甘味処を探しておりまして、恐らく、この辺りにあると聞いたんですが……」
「ほう、甘味処――――」
肉体労働がメインの彼らならば、甘い物の話には反応してくれるだろう。そう推測していた僧正の放った言葉に、彼は見事に食いついた。
兵は僧正が開いた紙を凝視した後、短く唸り声を出したかと思うと顔を上げた。自分の仲間を見つけると手を挙げて招き寄せる。離れた場所にいた兵が不思議そうな表情で寄って来た。
「おい、この辺りに甘味処っていっぱいあるよな?」
「あぁ、姫菓とか有名だが、それ以外にもたくさんあるぞ」
「この店知ってるか?」
「どれどれ?」
僧正が持っている紙を横から覗き込んだもう一人の兵は、そこに書かれたものを見ると目をぱちくりさせた。数秒間、紙と睨めっこした後、自分を呼んだ兵へと視線を戻す。
「いや、俺もわからんな。俺たちよりも、そこらの店の人に聞いたらわかるんじゃないか?」
「確かに、それもそうですね。お手数おかけしました」
僧正の小芝居も堂に入ったもので、腰を低くしながら頭を下げる仕草など、違和感がまるでない。
目配せした僧正に気付き勇輝も二人の兵に会釈しながら後を追う。
「さて、後は適当な店で場所を聞くか。勇輝、さっきのことが解決するまで七丸の手を離すなよ?」
「わかってますよ。ほら、七丸。行く――――」
七丸を見た瞬間、勇輝は背骨が氷に変わったのではないかというほどの悪寒を感じ取った。その原因は七丸の目。先程、話していた兵二人をこれでもかという程、睨みつけている。
無邪気に笑っていた七丸からは想像もできない変貌に戸惑っていると、くるりと顔が勇輝へと向けられた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「え? あ、あぁ、離れないように手を離すなよって言おうとしたんだ」
「うん、わかった」
一転して、元の表情に戻った七丸。
今見たのは幻か。はたまた白昼夢だったかと疑う勇輝だったが、脳裏にはまだ視線だけで人を殺しそうな七丸の目が焼き付いていた。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




