混乱Ⅶ
勇輝にぶつかった男が、人混みをかき分けながら辿り着いた場所は冒険者ギルドであった。
咳き込みながらカウンターへと突っ伏すように辿り着くと、一人だけいた報告窓口の男は目を丸くして仰け反る。
「ご、ご用件は?」
厄介な冒険者が来てしまった、と内心思っていた職員だったが、その認識を即座に改める。
何故ならば、服装こそ一般人の恰好をしているが、彼もまたギルドの職員であることに気付いたからだ。
「一茂先輩、ですか? どうしたんですか、そんな恰好をして!? 大切な仕事があるから、当分、ここには戻らないって言ってたじゃないですか!」
「――――んな、こたぁ、どうでもいい! 公太、ギルド長はどこにいる!?」
白目を剥きそうなくらいに切羽詰まった様子で捲し立てる一茂に、公太は両手で落ち着くように制する。しかし、一茂の勢いは止まるどころか増してすらいるようで、今にもカウンターを乗り越えてきそうな気迫が感じられた。
「お、落ち着いてください。ギルド長は、ファンメル王国の使節団の準備で忙しいんです。先輩も知ってるでしょう!」
「その使節団にもしものことがあったらやばいだろうが! だからこうして、俺が必死になって走って来たんだ。あの野郎はどこだ!?」
「まずは落ち着いてくださいって! ほら、そんな危ない話があるんだったら、それこそ声を潜めないと周りの一般の方に聞かれて、あっという間に広まっちゃいますよ!?」
その説得に納得したようで、ようやく一茂は大きく深呼吸して、カウンターから身を引いた。
公太も姿勢を戻して、ギルド内を見渡す。
幸い、冒険者の姿は見えず、ギルドの外から覗き込んでいるような人もいない。この醜態は見られずに済んだと胸を撫でおろした。
「それで? 一体何があったんですか? ギルド長は、今、検問所やら何やらと色々なところに顔を出しに行っていますよ。何せ、使節団の到着は明日だと連絡が入ったので、その最終確認で忙しいようです。他の先輩方や新人君も、やることがあって裏にいたり、外でギルド長と同じように確認しに行ってたりです。おかげで、受付は自分一人ですよ」
「くっそ、裏には誰がいる? いや、駄目だ。ギルド長じゃねえと意味がない。確か、緊急用の閃光弾があったよな。最悪、それをぶち上げ――――」
「何考えてるんですか。そんなことしたら、余計に目立っちゃうじゃないですか。大人しく、ギルド長が帰って来るのを待ちましょう。急いては事を仕損じる、っていうじゃないですか」
公太は間も置かずに再び慌て始める一茂を宥める。
そんな中、一茂は公太など目もくれずに辺りを見回して、何か良い案は無いかと探しているようだった。当然、それで簡単に見つかるはずもなく、公太へと視線を戻した一茂は声を潜めて告げた。
「いいか。俺は今から、ギルド長が行きそうな場所を片っ端から調べて回る。お前は、もしギルド長が帰ってきた時に、あいつが慌ててなかったら、俺の言ったことを伝えてくれ」
「えぇ!? 自分がですか? まぁ、別にいいですけど」
結局、面倒な役は自分に回って来る。
そう思いながらも、拒否する理由は浮かばない。仕方ないと思いながら公太は不本意ながら頷いた。頷いてしまった。
もし、彼が一茂の言う内容を何かしらの方法で予知で来ていたとしたら、全力で耳を塞いで、即座に逃げ出していただろう。
しかし、不幸にも彼は、その言葉を無防備に受け入れてしまった。
「――――の封印塚が破られた」
「――――え?」
最初、公太は言葉の意味を理解できなかった。いや、脳が理解を拒んでいた。
体の動きも、思考も、何もかもが止まったように感じる。かろうじて、視線を一茂に向けると、あれだけ慌てふためいていた彼が、とても冷静に佇んでいるのがわかった。
「既に中の化け物は、包囲網を突破し、行方知れずだ。今、わかっているのはそれだけ。後は頼むぞ」
「え、ちょっ!?」
公太は踵を返す一茂を呼び止めようとするが声が出ない。
気付けば、一茂の姿はギルドの外へと駆け出しており、残っているのは自分と商店の管理をしている老人だけになってしまった。
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