混乱Ⅳ
僧正は既に待ち合わせ場所である検問所の所で腕を組んで待っていた。
勇輝の姿を見つけて、一歩踏み出したところで動きが止まる。
「なんだ? その童は」
「えっと、色々とありまして、つい――――」
勇輝は簡単に七丸と出会った経緯を話すと、僧正に呆れられた。
「こういう幼子を放って置けんというのは人として素晴らしいことだが、我々はここに居たとしても数日程度。最後まで面倒を見るわけにはいかん」
「せめて、薬草の取り方くらいなら何とか」
「街の外は場所によっては危険なところもあろう。それをこの童が近付かぬように教育する。或いは、魔物が出ても戦えるようにする。そこまで出来て初めて面倒を見た、と言えるのではないか?」
僧正の言葉は正論以外の何者でもなく、勇輝は口を閉ざすしかできない。
「お兄ちゃんを、いじめないで」
そんな勇輝の前に七丸は立って、僧正へと言い放つ。
何の話をしているかはわからなくとも、自分のことで勇輝が責められていることは理解できているようだった。
そんな七丸の姿に、僧正は困った表情を浮かべながらも屈んで視線を合わせた。
「お嬢ちゃん。我はお兄ちゃんをいじめているのではない。大人として、どのようなことをするべきかを考えさせているんだ」
「でも、お兄ちゃんは悲しそう」
「当然だ。お嬢ちゃんの為にどうすればいいのかを一生懸命考えているんだからな」
そう告げた僧正は、そのままの姿勢で勇輝の方を見上げる。
「先に中の職員と話をして確認してきた。どうも、明日に来るという王国の姫様の船団の積み荷にあるらしい」
「アメリア第一王女の船に? 何でまた?」
「恐らくだが、巫女長の名前で注文したのだろう。実際、我が受け取った木札にも、そう書かれているからな。あちらの国でも宗教があるのならば、祭祀の長の名がどれだけ重いかくらいは理解しているはずだ。確実に届けるための手段として、そうしたのであろうよ。その過程がどうであろうとも、我々は明日まではここに拘束されるということだ」
そう告げると、僧正は七丸を上から下までさっと見る。
「まずは、この童の服や武器を何とかしてやらんとな。お主、それくらいの銭は持っておるな?」
「はい、念のため、金二両ほど持ってきています」
「……お主の金銭感覚も少しは改めねばならんな。盗まれぬようにしておけ。まずは呉服屋――――いや、戦うのであれば、武器屋の近くに袴なども売っておろう。行くぞ」
予備動作もなく、さっと立ち上がった僧正は東西に延びる通りの西側へと視線を向ける。
勇輝は、まだ散策していない東側を見ながら、そのような物たちを扱う店を探そうという意図を察した。
「七丸。今から服とかを買いに行こうか」
「……この服。捨てたくない」
色こそ綺麗なものに戻っているが、右袖は大きく切り裂かれており、無理矢理糸で補修した形跡があった。また、下半身の部分はところどころに穴が開き、糸がほつれている。流石の勇輝もこれ以上は着れないだろうと思っていると、僧正が首を振った。
「捨てる必要はない。いずれ、補修することも考えて、大切にしまっておけばいいだろう」
「ほんと?」
「あぁ、本当だとも。ただ、その格好のままうろつくと怪しい人に見られてしまう。しっかりとした服を着ておくことは大切だ」
「わかった。おじいちゃんの言う通りにする」
「おじ!? ――――いや、実年齢は確かにそうだが……勇輝、そこまで老けて見えるか?」
烏天狗として変化の術を使っている僧正。その姿は、どんなに大袈裟に言っても三十代前半くらいの若さに見える。まかり間違っておじさんと呼ぶことはあっても、おじいさんと呼ばれることはないはずだ。
肩を落として、落ち込む僧正を勇輝は慰めながら、七丸へと注意する。
「七丸。この人は僧正さんって呼んであげて」
「僧正おじいさん?」
再び、襲い来るおじいさんというワードが僧正の心へと突き刺さった。
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