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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第22巻 からくれなゐに染まる腕

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混乱Ⅰ

 陽が差し込み、木々の木漏れ日が光のカーテンとなって辺りを照らす。

 乾いた土を何人もの人々がゆっくりと、音を立てぬように歩いて行く。ある者は袈裟を、またある者は紅白の巫女装束を、またある者は山伏姿で進んでいた。中には狩衣や甲冑を着こんでいる者もいる。

 息を潜めて何かに気付かれぬように行動する様は、一歩間違えると見る者を暗殺者と勘違いさせてしまうだろう。

 やがて、彼らの視界には朽ち果てた木組みの仕切りが飛び込んでくる。十メートル四方を囲う様にして作られたそれは、一部が完全に破られていた。


「――――間に合わなかったか」


 僧侶の一人が慌てて、その傍まで駆け寄る。

 木の囲いの中には石で作られたもう一つの囲いもあったが、それも同じ方向にある部分が粉々に砕け散り、破片がそこら中に転がっていた。


「しかし、封印塚が破られたとはいえ、まだ被害者は出ていません。まだ近くに潜んでいるのでは? 或いは、まだ完全に封印が破られていないとか」


 周囲の木の上に警戒しながら巫女の一人が呼びかける。


「いや、聞いていた話では、ここに人型の石が横たわっているはずだったが――――どこにもない」

「内側から外側へと向かって吹き飛んでおる。聞いていた通りの存在ならば、石の檻など封印されていた者にとっては泥人形も同じ。硬さなど意味を持たないだろう」


 そう告げた僧侶は、その場に散らばった石や木の破片を拾い上げて観察する。親指と人差し指に挟まれたそれらの欠片は、常人であっても思わず手を放したくなるような何かが籠められていた。


「まずはこのことを下にいる者たちに伝えねば始まるまい。封印塚の補修は失敗した、とな」

「まだ結界があります。対魔専用に作り出された複合結界が。それがある限り抜け出すのは不可能です。封印が解けて、まだ間もないはず。それならば、力を完全に取り戻す前に再封印が可能でしょう」

「うむ。その為に我々が集められたのだからな。一先ず、そこの陰陽師殿。式神での連絡は可能かな?」


 僧侶に尋ねられた壮年の男性は、無言で頷いた後、言葉少なに告げる。


「――――既に」

「結構。一度、下山して作戦を練ろう。恐らくは、結界を縮小させながら逃げ場を塞ぎ、堪らず出てきたところを仕留める形になると思うが」


 僧侶はため息をついて、手に持った欠片たちを放り投げる。乾いた音を立てて転がるそれを山伏の男が拾い上げた。


「何かしらの追跡に使えるかもしれん。私が預かっても?」

「残っている瘴気は濃い。呑み込まれぬようにな」

「当然」

「よし、では戻るとしよう。いつ襲ってくるかもわからん。護衛のものはもちろん、みな油断せぬよう気をつけてな」


 数珠を持った手を合わせて、僧侶が呟きながら下山を始めると、他の者たちも次々に散らばっていく。

 本来ならば、ここの結界修復はあと一日で終了しているところだった。しかし、最後の大詰めである中心の結界を張り直せば終わりというところで、まさかの事態が判明した。ここを下り行く面々は勿論、式神による報告を受け取った者の絶望は計り知れない。


「面倒なことになりましたね。もし、全力のアレと戦うとなれば、それこそ南条家の本隊を連れて来なければ行けないかも――――あ、いや、別に皆さんが頼りないという意味ではありませんからね」


 巫女が途中ではっとして、護衛の兵たちに慌てて弁明する。だが、武士たちはみな一様に苦笑いをしていた。


「仰っていることはわかります。我々も十分、その魔の者の恐ろしさを幼少時から聞かされているので。戦力が多いに越したことはないでしょうね。何なら、私自身、同じ考えを抱いたくらいです。どうかお気になさらず」

「そうですか。そう言ってくれると助かります」


 ほっとした様子で巫女は僅かに笑みを浮かべた。しかし、それも一瞬のこと。すぐに表情を引き締めて、辺りを警戒する。


「人と同じ姿を維持しながら、大鬼を遥かに上回る膂力と生命力を誇る鬼。何としてでも再封印をせねばいけません」


 その言葉に周囲の者たちは声を出すことなく、ただ力強く頷いた。

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