待ちぼうけⅥ
雑踏の中を何かないか見回しながら、通りを歩くと甘味処の名前が目に入った。
「姫菓」と書かれており、団子や羊羹などが出されているのが見える。
「(そう言えば、入国した時に隆三さんがおいしい店があるって言ってたな)」
北御門隆三。
この領地を治めている四方位貴族の三男で、偶然、勇輝と桜が帰国する際に同船していた弓使いだ。
雛森村に辿り着くまでに色々と助力してくれており、今は海外の迷宮で手に入れた貴重な魔弓を、兵器開発を担当する南条家に届けているところだ。
勇輝たちが雛森村に到着してから、別れてかなりの日数が経っているので、恐らく、既に南条家には辿り着いているはずだ。
「(羊羹は噛み切るのにも苦労しないし、日持ちもする。広之さんの為に買って帰るのもありかもな)」
桜たち家族で分け合って食べるにも不自由しない。その点ではお土産としても優れている。最悪、何か不都合があれば、羊羹が好きな村長に譲るという手もある。
また帰る時に寄って行こうと考えながら、視線を前に戻した時、視界の端に何かを捉えた。
活気に溢れる人の列、店頭に寄る人だかり。そういった賑やかな景色とは対極にある暗いものが一瞬だけ映り込む。
「(アレはさっきの――――)」
一瞬しか見えていなかったが、その容姿を見間違えるはずがない。ぼさぼさの髪や汚れた服というのは、この街において明らかな異物。すぐに勇輝はそれが、すれ違う時にぶつかった人であると気付いた。
改めて見ると体は小柄で、ぱっと見は子供のようである。店と店の間の隙間で膝に顔を埋めてじっと動かずにいる。
その様子に道行く人も店の人も反応しない。いや、そもそも認識すらしていないように見える。
先程、ぶつかった負い目もあり、勇輝は下手に手を差し伸べるのは不味いことも認識しつつ、その子供へと近づいた。
「こんにちは、うずくまってるけど大丈夫かい?」
最初は誰に話しかけているのかわからなかったのだろう。だが「うずくまってる」という言葉でそれが自分のことだと理解したようで、顔を跳ね上げた。
伸び切った髪の隙間から僅かに覗く目が勇輝の目とあう。すると、遅れてその子は体を引きずる様にして後ずさりした。
「な、ななな――――!? あたっ!?」
あまりにも後ろに下がった結果、背後に置かれていた箒やらなにやらに後頭部を強打してしまう。
「あ、その、なんかごめん」
頭を押さえて悶える子供に勇輝は迷った挙句、謝ることしかできなかった。思わず中途半端に片手を挙げたまま勇輝が固まっていると、背後から男の声が飛んでくる。
「ちょっと、店の中に音が響くから静かにしてくれない?」
「あ、すいません」
「ったく、騒がしいのは客と上さんだけで十分だよ……」
男が愚痴を言いながら再び店へ戻っていくのを見送って、勇輝は子供の方へと向き直った。既に頭の痛みは引いているようで、今は勇輝の方をじっと見つめていた。
勇輝は三メートルほど離れたところで屈んで、同じように見つめ返す。
「俺は勇輝って言うんだけど、ちょっと前にそこでぶつかったよね。あの時は謝れなかったから、君を見つけて謝りに来たんだ。ごめんね」
「……」
「そういえば、こんなところに一人でいるけど、親御さんとかはどこにいるのかな? 随分と大変な格好だけど……」
返事が無かったので、勇輝が更に言葉を続けると、蚊の鳴くような声がその子の口から漏れ出る。
「親は――――いない」
「そっか。じゃあ、ずっとこの街を彷徨って?」
「ううん。ここはずっと夜の間、走り続けて辿り着いた。山の中で大勢の人がいて怖かったから」
勇輝は子供の言っていることを聞いて、思わず首を捻りたくなった。
親もいない山の中で小学生高学年かどうかくらいの子供が一人で暮らしていくことができるのか。大勢の人に追い立てられるようにして逃げて来たにしても、明らかに一日、二日でこんな姿にはならないはずだ。
そもそも、急にそんな大勢で小さな子供を怖がらせる大勢の人とは一体どんな集団なのか。
勇輝は聞きたいことを何とか呑み込んで、子供へ問いかけた。
「じゃあ、ここには来たばかりでお金もないってことだね。ちょっと、ここで待ってて。すぐに戻って来るから」
そう言うと、勇輝はすぐに通りへと戻って行った。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




