待ちぼうけⅠ
馬車と御者を貸与された勇輝と僧正は、海京と穴津を結ぶトンネルを行くことになった。出発したのは陽が沈む前であったが、魔物が出る心配は無いため、安心して乗り込むことができた。
勇輝は一度、このトンネルを通ったことがあるのだが、その時は罪人のような扱いで目隠しなどをされていたため、見覚えなど欠片もない。むしろ、馬車の揺れと体の痛みくらいしかないという最悪の記憶だけが刻まれていた。
「洞窟の中で瞑想することはあったが、このような移動のためにここまで整然と作られた洞窟は見たことがないな」
「山を全部くりぬいて、しかも天井が落ちてこないようにしてますからね。相当大変だったでしょうけど」
ところどころで、新鮮な空気が風と共に吹き抜けると山を一つ通り抜けたと実感をする。一直線に進んでもかなりの時間がかかるため、二人に出来ることはあまりない。
勇輝がやっていたことと言えば、指の先に水の球を浮かべて形状を維持したり、回転させたりする魔力操作の練習をしながら、僧正と会話をすることくらいだ。つい最近まで、魔力の使い過ぎで勇輝も不調だったのだが、ほとんど魔力を消費せずに鍛錬が出来ることもあり、僧正もその程度では注意をしなかった。
「鍛錬もほどほどにしておけ。もう、魔法石で明るいが、外はそろそろ陽が完全に沈む頃だろうからな」
「馬車の速度もそこまで早くないので、着くのは明日の朝くらいですか?」
「恐らくそうだろうな。おかげで振動も少ない。寝ようと思えば寝られるだろう。……首や背中が起きた時に痛くなっているかもしれんが」
寝なければ体がだるくなり、寝れば体が痛くなる。どちらにしても苦行だが、寝不足と痛みならばパフォーマンス的には寝不足の方が悪くなると勇輝は思っていた。その為、魔法を解除して横になろうと考えた所、ちょうど山を一つ通り抜けたようで、冷たい風が吹き抜けていく。
外の様子を覗いてみると、行き交う馬車の光以外はほとんどなく、宿場町なども一切存在しない。魔物が侵入しないように高い仕切りと警備の人員はいるようだが、少なくとも、ここに留まることはできないようになっていた。
「本当に外は真っ暗だな。空は月と星で凄い明るいけど、山の方は――――」
突如、勇輝の視界が狂った。
天に浮かぶ光は暗闇に呑まれ、空は赤く染まり、山々は業火に包まれる。
あまりにも唐突な変化に思考が追い付かず、指一本動かすことはできない。ただ、頭の片隅では目の前に広がる景色が異常であることを何とか理解しているようで、全身から汗がぶわりと噴き出すのを感じた。
「勇輝、どうした?」
「――――はっ!?」
僧正に後ろから声を掛けられたと同時に硬直が解ける。瞬き一つで視界は元に戻り、次の瞬間、目の前は再びトンネルの魔法石の明かりが降り注いだ。
「幌の外を幼子のように、集中して見ていたが、何かいたか?」
「いえ、ちょっと、変な光景が見えたので」
勇輝は自分が見た光景を僧正に話してみる。すると、僧正は腕を組んで唸り始めた。
「お主の眼は人や物に対して固有の色の光を見ることができる。そして、それは性質に由来するものではないかと推測しておったな」
「はい。火なら赤、木なら緑、毒ならば紫、ですね」
「五行の範囲で考えれば、水が黒ではあるのだが、それは青に見えるのだな? いや、そもそも青というのは緑でもあって非常に言葉にしにくいのだが……。いや、それはまた別の話か」
今でも緑のことを青と表現することは多い。その点について、言語化に僧正は困りながらも、勇輝の見た光景について話を戻す。
「少なくとも、我は何も感じなかった。むしろ、あれだ。お主、あの者の曾孫であるなら、未来視の能力でも発動したのではないか?」
「未来視ですか? 最後に未来視したのは随分と前ですけど……」
「こちらの世界に来て、魔的な刺激を受け続けているのだ。知らず知らずの内に、力が活性化していても不思議ではない」
僧正の言葉が事実だとすれば、それだけの惨劇が起こるということになる。脳裏に先程の光景が蘇り、勇輝は思わず身震いした。
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