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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第22巻 からくれなゐに染まる腕

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怪僧Ⅴ

「さて、今日はそのような話をしに来たわけではないのは知っている。広之殿の体調が思わしくないのは、儂も知っていた。色々と薬や道具を用意してはいたが、効果がありそうなものが無くてね」


 巫女長は背後に並んだ机の上に目配せする。何に使うのかわからないような道具もあれば、液体、固体を問わず様々な薬らしきものが並んでいた。


「幸か不幸か。儂にはできずとも、他に用意できる人物が見つかった――――」


 本来、喜ぶべきことであったが、幸か不幸か、と告げた部分に勇輝は疑問を感じた。

 それは巫女長にも伝わったようで、僅かな沈黙の後にゆっくりと口を開く。


「――――土蜘蛛を宿した僧侶を覚えているね? 彼がそうだよ」

「え、あのお坊さんが、ですか?」

「儂も、まさか、とは思っていたのだがね。よくよく考えてみれば、土蜘蛛なんてものを取り込もうと考えるくらいだ。それなりの準備はしていたということだろうね」


 そう言うと、巫女長は持っていた紙を広げて見せた。


「これは……火焔宝珠(かえんほうじゅ)か?」

「知ってるんですか?」

「あぁ、何せ仏教に関わるものだからな。似たようなものはお主も寺で見ているはずだ。しかし、これをどう使うつもりなのか……本来のままの意味で使うとなると、色々な意味で問題になるはずだが……」


 戸惑いの視線を僧正は巫女長に投げかける。

 火焔宝珠とは、仏教建築物の頂点に置かれる飾り一部のことを言う。玉葱のような形の宝珠に燃え上がるような透かし彫りがあるものが多い。仏教界においては龍王の頭の中にあると言われたり、仏舎利が変化したものであると言われたりしている。その効果は、非常にわかりやすく「手に入れた者はいかなる願いも叶えることができる」というものだ。

 僧正が心配するのも、そんな物が作れるのならば、それを巡って争いが起こる可能性があるからだろう。


「だが、それを手に入れるではなく、疑似的に作るというのなら話は別だ。恐らくは、似せて作った物体に術式を宿して何かしらの結界の核にすると言ったところだろうか?」

「濁水を清水に変えると言った逸話もあります。それを応用した術、と考えれば理解していただけるかと」

「ふむ、あり得なくはないな。だが、問題は山積みだろう」


 当然ながら、それを作るための技術者がいても、肝心の材料が無ければ意味がない。それに何より、その制作をできる人物が、封印塚を破った大罪人であるということだ。

 現在、その人物は取り調べが続けられている最中ではあるが、ほぼほぼ死罪が決定しているようなもの。そんな人間がただで力を貸すとは僧正は到底思えなかった。


「既に本人に製作してもらえるよう話は通しました。材料も後は運びこむだけの状態まで準備は進めてあります」

「……もしかして、それも未来視?」

「いや、前々から広之殿とは連絡を取っていてね。体調が悪い原因もわかっていたから、色々と手を尽くそうとしていたんだよ。何しろ、儂の命の恩人でもあるからね」


 巫女長は、更にもう一枚の地図を広げる。それは北御門領の洞津の街の全体図だった。


「探すのに苦労したが、ファンメル王国に自生している物を取り寄せた。無憂樹(むゆうじゅ)の木の幹が近日中に届く」

「仏教三大聖樹、始まりの木か。確かに、それならば効果もあるやもしれん」


 材料を聞いて、僧正は大きく頷いて納得した。

 無憂樹は釈迦が生まれた時に母親が横たわっていたのが、この木の下であったと伝えられている。そして、残りの二つの樹木は悟りを開いた際にあった「菩提樹」、入滅をした際の「沙羅双樹」である。


「そうか……陰陽道は神道や仏教の影響も受けてるから、もしかして、術が競合したり反発したりしない?」

「そうだよ。だから、広之殿の奥方も巫女としての力で結界を作って支えているはずだ。尤も、今回はそれに限界が来たようだけどね」


 残念だとばかりに巫女長は深くため息をついた。

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