怪僧Ⅳ
前とは違った意味で視線が突き刺さるのを我慢しながら、巫女長がいる部屋の前へと辿り着く。
「ここからは、お二人でお願いいたします。残念ながら、今日は席を外さねばならないようなので」
「ありがとうございました。また、お会いした時によろしくお願いいたします」
「いいんですか? 姫立ちの儀を終えて、そのような約束を女子と交わしても」
「な゛っ!?」
一瞬で顔が赤くなる勇輝を見て、光子は噴き出すように笑った。
「ふふっ、まぁ、そういう心配させるようなことをしたら、全乙女の敵ということで私がお仕置きしに行くので、そのつもりで」
とてもいい笑顔を浮かべながら握りしめる右拳。いつから巫女とは鉄拳制裁を得意とする職業になったのかと、一瞬考え込んでしまいそうになる。空笑いしか出てこない勇輝だったが、それを見た光子は満足したのか手を振って去って行ってしまった。
「さて、入るぞ。巫女長と会うのは我も初めてだから、少し緊張してしまうな。――――失礼」
軽く呼吸で自分を落ち着かせた僧正が襖を開く。
すると、以前と変わらぬ姿で巫女長が奥から二人を見返していた。
「良く来たね、勇輝。そして、お会いできて光栄です。鞍馬の大天狗殿」
「……初対面、だな?」
僧正はいきなり自分の正体がバレたことに動揺を隠せずにいた。もちろん、動揺したのはそれだけではない。巫女長のもつ力の大きさに、思わず圧倒されたようだ。
「人の身で、よくぞここまで……」
魔眼など無くても、僧正は巫女長の異様さを感じ取ったようで、その口からは感嘆の声を漏らす。
「さあさあ、そんな所に立ったままでは落ち着いて話もできない。入って、お座りなさいな」
促されるままに二人が座布団に座ると巫女がお茶を運んでくる。
その娘が去るまで沈黙が続き、襖が閉じるとまずは巫女長が口を開いた。
「うちの勇輝がお世話になっております。曾祖母のまつゑと申します」
「こちらこそ。鞍馬から姿を消して数百年。この地では僧正と名乗り、雛森村にてひっそりと住んでおる烏天狗にて……天下に名高き巫女の長に会えるとは思ってもなく」
珍しく僧正が緊張しているのが勇輝にもわかった。当然、それは巫女長にも通じているようで、柔和な眼差しで僧正を見つめている。
「百近く生きただけの人間に比べて、あなたの方が辛く苦しい修行を続けているはずです。そんな方に、そこまで言われるとは光栄の極み。――――こちらに敵意はございませんので、どうか安心していただければと」
「そうか……。我が身は人ではなく妖。おいそれと調伏されるような身ではないが、それでも、人の住まう国の中心ともなれば警戒もするというもの。悪いが少しばかり、この警戒は解けそうもない。特にお主のような力をもつ者ともなれば、な」
「残念ながら、力はあれども制御はできないただの器です。ただ、このままでは埒があきませんので、話を進めさせていただくことにしましょう」
そう言うと巫女長は勇輝の方を見た。
「まずは勇輝。夜駆けの儀を無事終えて良かった。こればかりはどうなるか私にもわからなかったからね」
「だから遠回しに俺が後で焦るようなことを、桜とここで話した時に言ってたの?」
「そうだよ。勇輝の悪い癖は、平均以上のある程度のところまでは頑張るけど、それ以上の高みに昇ろうとする時には尻を叩かれないと動かないところだからね」
「……仰る通りです」
ぐうの音も出ないほどの正論に、勇輝は頭を下げて肯定するしかない。
僧正も思うところがあったのか。隣で苦笑いしそうになるのを、顔を強張らせて抑えていた。
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