未来に向けてⅢ
同日、北御門領洞津港。
連日、冒険者の行き来で賑わう港町であったが、数日前から人手が急増していた。その急増した人の大半は、北御門直属の家臣団の兵と海京から呼び寄せられた兵たちであった。
最初は何か事件があったのかと訝しんでいた住民であったが、それも数日続けばすぐに慣れたものになる。むしろ、商売をする客が増えたと売り込みに行く者の多いこと。
派遣された彼らも、そこまで厳しい統制を強いられているわけではないのか。喜んでその声を聞いて手を挙げて呼ぶ者もいるほどだ。ただ、ここまで身一つで来ているに近い状態の為、主に喜ばれるのは食べ物――――特に甘味の類――――であった。
「……これから大変になるというのに、随分と呑気な」
入出国の手続きをしている部下たちを見ながら、普段よりも賑やかな外の声に北御門家の次男である隆二は目頭を押さえた。
今回の兵たちの派遣は、純粋な警備だ。水皇、水姫から知らされた日ノ本国建国以来の記念すべき日とも、大事件とも言い換えられる行事が控えている。
「上手く行けば国の絆は深まる。しかし、一歩間違えれば、日ノ本国が滅びかねない一因ともなる。果たして、鬼が出るか蛇が出るか。願わくば、あちらでいう幸運の女神であることを祈るしかできないか」
今まで、海外の国々との使者のやり取りは何度かあった。しかし、魔物がうろつく危険なこの世界においては、その使者でも時には命を落とすことがある。特に、海はその大半が謎に包まれ、人知れぬうちに船ごと人々がこの世から消え去っているなど当たり前であった。
日ノ本国の龍神がいる範囲は辛うじて平和が保たれていると言われているものの、それも本当かどうかは定かではない。それ故に、日ノ本国から使者を送ることはあっても、日ノ本国に使者が来るというのは稀であった。
初期の頃は、わざわざこちらから毎回出向くのは属国のようで気に食わないという意見も多かったが、魔王の出現を経るごとに、その意見も世代を重ねながら消えて行った。
そのような経緯もあり、表向きは来訪する使者を全力で歓迎し、またこれを護衛するという名目で兵が集められている。
「調子はどうだ。隆二」
「お爺様!? わざわざ、ここまで!?」
「ふっ、老体が来ては迷惑か?」
隆二の後ろからぼさぼさの白髪を束ねた老人が歩いて来ていた。背は隆二よりも低いが、服の上からでも筋肉ががっしりとついていることがわかるくらいに引き締まっている。手に持った槍を肩に掛けながら、顔の皺が増えるほどに口の端を持ち上げるので、隆二は慌てて首を振った。
「いえ、相変わらずご壮健そうで嬉しい限りです」
「はっはっはっ、隆二は昔から優しいのぅ。少しは隆三にも見習ってほしいところじゃ」
大きく口を開けて高笑いする老人だったが、その目に宿る光はあまりにも鋭く、孫である隆二でも身震いしてしまう。
彼は北御門家の前当主、隆道。今でこそ当主を退いているが、その槍捌きは衰えることを知らず、数年合っていない孫である隆三に技量を上げ続けていると確信させるほどの超人であった。
「しかし、だ。本音を言うとだな。最近のひよっこ共だけに護衛を任せてはおけぬと思って来てやったのよ。何も起こらなければそれでいい。何か起きたならば手助けをする。その程度だと思ってくれればよいぞ」
「お待ちください。お爺様がここに来るのを父上は……?」
少なくとも、父の隆盛は絶対に止めに入る。それにも拘わらずここにいる隆道に、隆二が冷や汗をかいていると、隆道は飯の話でもするかのように気楽に告げた。
「あぁ、少し稽古をつけて庭に転がしておいた。半刻もすれば来るだろう」
「あぁ……そうです、ね……」
稽古と称して、立ち上がれなくなるまで扱かれた父の姿が隆二には容易に想像がついた。
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