未来に向けてⅡ
既に海京には、この事件の簡単な経緯を記した文を送られている。恐らく、近日中に何かしらの連絡が届き、一週間も経たぬ内に枝双を移送するための部隊が来訪することになるだろう。
「可能ならば、お主もこのことについては、反省の弁を述べねばなるまい」
それが文になるのか、それとも直接になるのかは、水皇、水姫の判断になるだろう。真行の為に、ある程度までは張継も庇う覚悟はある。だが、一線を越えた沙汰が下れば、それは覆すことは不可能だ。
できることは可能な限り自らの過ちを伝えることだが、ここまで衰弱していた真行に筆を握る力は残っていない。ましてや、海京に自ら赴くなど夢のまた夢だ。
「真達に代筆でもしてもらって、文を送るくらいしかできることはないかもしれんな」
半分、諦めたような表情で張継が告げると、最初から分かっていたとでもいうように、真行は残念がることもなく、小さく頷いた。
もう目を開けているのも限界なのか。顔を天井に向けて、大きく息を吐いた。どうすればよいかを張継が考えていると、再び廊下の方でどたどたと騒がしい音が響く。音は近付いてきているようで、次第に大きくなる。ついには部屋の前まで辿り着いたかと思うと、勢いよく襖が開け放たれた。
「村長、蜻蛉。しばらく、暇を頂きたい」
「はぁっ!? な、何を急に……いや、待て。お主、何をするつもりじゃ?」
張継は軽装でこそあるが、旅支度を整えた出で立ちの真達に目を見開く。その後ろで、蜻蛉は何かを悟ったような表情で僅かに笑みを浮かべていた。
「どうするもこうするもありません。息子の不始末は私の不始末。これより海京と南条家に出向いて、謝罪をしてくるつもりです」
「ば、馬鹿なことを言うな。だいたい、急に訪れて水皇様と水姫様がお会いに慣れると思っているのか?」
「いえ、なので村長にはお会いできるよう一筆お願いしたく」
あまりのことに張継はもちろん、疲れで睡魔に襲われていた真行も思わず目を見開いていた。真達は驚愕と疑念に満ちた表情で見つめる真行に告げる。
「今まで、お前に朝凪家の剣術を叩きこむことしか考えていなかった。正直、なかなか覚えないお前に苛立った日が何度もあった。だが、そればかりにかまけて、お前としっかり向き合って話をしてこなかったのは、親である私の責任だ。それならば、まずは私が動くのが当然。もちろん、お前にも体が動くようになったら、再度、私と共に謝罪に向かうのだぞ」
「は、はい……」
「ついでだ。夕凪家の方とも話をつけてくる。こんなことを引き起こしたうつけ者を引き受けるだけの心の広さを、あの娘がもっていることを祈るんだな」
「なっ、そ、それは――――」
血の巡りが悪かった真行の顔が僅かに赤くなり、金魚のように口を震わせる。その姿を見て、真達は意地悪な笑みを浮かべた。
「自分の口から気持ちを伝えたいって? 大うつけが、相談する勇気すら出せなかった罰だと思え」
「――――あぁ、もう仕方ない。どうなっても知らんからな」
真達の一方的な宣言に呆れながらも、どこか憎めないと感じてしまった張継は、勢いよく立ち上がった。
「今から家に帰って一筆したためてやる。それまで、ここで大人しく待っておれ」
「感謝します」
頭を下げる真達の前をわざとらしく床を踏み鳴らして張継は歩いていく。かなり高齢なはずの張継だが、部屋を出て玄関まで辿り着くと、誰も見ていないことを確かめて自宅へ向けて走っていく。
蜻蛉たち程ではないが、その速度は明らかに一般人の出せる速度からかけ離れていた。
それが見えていないはずの蜻蛉は、その光景が見えているかのように壁ごしに目で追いながら真達へと語り掛ける。
「そういう無茶な所は、昔から変わらないな」
「お前と潤平には言われたくないがな。何、少しばかり私も今回のことで目が覚めただけだ。剣術を教えるだけが父親の役目ではないのだとな」
顔を逸らした真達の表情は、真行が初めて見たと断言するほど穏やかなものであった。
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