後始末Ⅷ
穣は逡巡した後、追いかけて来てくれた三人の顔を見る。
「何やってるんだよ。さっさと立てよ」
為末が穣を急かすと、隣にいた実保が首を振る。
「まったく、修平さんに心配かけさせるな。お前がいつまでもそんな状態だと、こちらも困る」
「そうそう。穣のいいところは、大抵のことを飯食ったら忘れて、明るくなることなんだから――――」
「――――達雄、言い方というものがあるだろう」
割って入った達雄に実保は苦言を呈するが、本人はどこか納得がいったようで、呆然と開けていた口が僅かに笑み変わる。
「そうだな。確か、聞いた話では新しい兵糧を作っていたんだろう? ほら、試食をして味を確かめるのは得意じゃないか。どうせ食べるなら、上手いものの方がいいからな。将来の緊急時の為にも、頑張ってもらわないと。ほら、今から行くぞ」
そこまで言われてしまえば、穣も修平の気持ちに応えたいという気持ちと、空腹という生理現象を前に立ち上がらざるを得ない。修平の手を握ると力強く引っ張り上げられた。
「……とはいえ、もう少し体を絞らなければいけないのは事実だな。山の見回りを増やさねば」
「「「え゛、見回りって、穣を痩せさせるためにやってたんですか!?」」」
ここに来て、明かされる衝撃の真実に穣以外の三人は一斉に修平を見た。
「いや、山の見回りは任務の一つだ。だが、それは俺だけでも十分できる。ただ、何かあった時に地形を把握しておいてほしかったこともあって、お前たちを呼んだんだ。――――その気持ちが無かったと言えば嘘になるが」
否定しきらない言い方に、三人が驚きを隠せずに唖然としていると、傍から見ていた張継が声をかけた。
「若い内の失敗は何とでもなる。余程のことをやらかさぬ限りな。下の失敗を受け止められる心の器を持つことも上に立つものの務めみたいなものだ。それが嫌ならば、次の為に相応の努力をせい。よく食って、動いて、寝るのを忘れずにな」
「わ、わかりました」
自身のせいで変な空気になってしまっていることに穣は気付いたようで、申し訳なさそうに頭を下げながら下がる。そんな彼の襟首を実保は捕まえると、門に向かって歩き出した。
「これ以上、村長殿の前で失態を見せるわけにはいかん。とりあえず、場所を変えましょう」
「あぁ、とりあえず、家に向かおうか。流石に母上が心配だ。すいませんが、私は失礼させていただきます」
修平も張継たちへと頭を下げた後、門へ向かって駆けだす。
その背中を見送りながら張継はぼそりと呟いた。
「ふっ、青いの。だが、良い部下ではなく、良い友をもったようだ。あれならば、心配はいらなそうだな」
「まったく以て、その通り。どこかむず痒くなるが、心が温まる光景ですな」
僧正も頷きながら、彼らを見送る。どこか自分にはない眩しいものを見出し、思わず目を細めてしまったのは気のせいではないだろう。
「さて、我々もあのような若者が少しでも苦労せずにいられるよう、頑張らねばな。一先ずは両当主を呼ばねば話が進まぬ。少し使いを出そう」
張継は玄関の近くで待機していた者を二人呼ぶと、蜻蛉と潤平を呼んでくるよう指示を出した。即座に二人が駆け出していく中、僧正はふと広之に問う。
「もし、聞くとしたら真っ先に何を聞く?」
「……私であれば『何をしたかったか』ですね」
少し戸惑った後に広之はそう答えた。
人の欲求というものは存外に強い。それは時に記憶などよりも強く心に焼き付いている。時には、身体にすら。
そんな人を人たらしめる欲求が何かを知ることができるのならば、孤面族の話を理解する手助けになると広之は考えているらしい。
「彼らはどこからきて、どこに行こうとしたのか。その大本を理解せずに、この事件を解決するのは難しいでしょうね」
広之の言葉は冷たく吹き荒ぶ風の中へと消えて行った。




