後始末Ⅶ
三者から同じような視線を浴びて、己の信用の無さに少しばかり傷ついたのか。張継は僅かに肩を落とす。
「まさか、米田の息子にまでそんな目を向けられるとはな」
「申し訳ありません。先程の殺気を見た後だと、まだ昂ってらっしゃるかと思い、少し心配になりました」
「よいよい。陰陽師殿の言う通り、老いぼれは縁側で茶でも啜ってようぞ」
軽く手を振って、地上へと向かう張継。
「いや、私はそこまでは言っておりませんが……」
広之が目を細めて、抗議をする。しかし、張継はそれに一切反応せずに歩いて行ってしまった。
「今のは、私が悪いのでしょうか?」
「何とも言い難いが……少なくとも、本気で言っているようではなかったので、あまり気にしなくともよいのではないか?」
「そういうことにしておきましょう。とりあえず、一度、上に戻って、お札の効力が切れた頃に尋問を再開ですね。それまでは――――我々も縁側でお茶でも啜っていましょう」
「前言撤回だ。やはり、お主が悪い」
ため息交じりに広之がぼやいたのを、僧正は首を横に振って大きくため息をつく。
本人は冗談のつもりなのだろうが、性質が悪いにもほどがある。横にいる修平もどう反応したらいいかと困惑していた。
「よくよく考えれば、彼に聞くことも精査しなければいけませんでしたから。張継殿、僧正殿だけでなく、赤桐・米田両当主もいてもらわなければいけません。その点、この時間は必要でしょう」
「そういう意味ではないのだが……いや、もう何も言うまい」
階段に蹴躓きそうになりながら上る広之を後ろから眺め、僧正はもう一度、ため息をつく。
言の葉を紡ぐという名を背負っているにしては、どうも棘がある物言いが目立つ。己の式神を一時とはいえ封じられたことや、先程まで戦闘の最前線にいたこともあって気が立っているのかもしれない。
そう僧正は自分に言い聞かせて、張継が宣言した縁側ではなく、再び外へと向かったのを広之たちと共に追いかける。
僅かとはいえ、光量が少ない地下から外へ出ると、眩い光に目が眩んだ。
その眩さに思考を奪われていると、前方から四人の影が走って来ることに遅れて気付く。敵襲ではないのだろうが、発せられる雰囲気には決死の突撃にも似た気迫を感じられて、思わず僧正はその四人を見る。
「修平さん! 無事だったんですね!?」
駆け寄ってきたのは修平の取り巻き四人衆。その中でも真っ先に突っ込んで来たのは、四人の中で最も足が遅い穣だった。僧正が脇に退くと、穣は勢いを殺すことなく修平へと駆け寄った。。
「穣か――――って、危ないぞ!?」
修平は久しぶりに会う四人に顔を綻ばせかけて、即座に身を翻して穣を避ける。
「なぁ――――んで!?」
驚きの声と共に空中に浮かんでいた穣は、そのまま修平がいた地面へとダイブする。
「いや、お前の巨体で飛び込んでこられたら、俺でなくても避けるぞ。流石に身の危険を感じた」
穣を受け止めずに避けた修平も、心配する気持ちはあるようで覗き込むようにして穣の様子を窺っている。
地面に突っ伏したままぴくぴくと震える穣だったが、急に体を仰け反らせるようにして上半身を起こすと修平の方に向き直って土下座をした。
「俺が至らないばかりにご迷惑をおかけしました。俺がしっかりしていれば、修平さんに夜掛けの儀までついて来てもらうことも、人殺しの冤罪を被ることもなかったはずなのに」
「穣、気にするな。あれは俺が勝手にやったことだ。それに、お前があそこであの男を斬り殺していたら、今頃、夜掛けの儀は成功していなかっただろう。最終的に上手く行ったんだ。顔を上げろ」
「で、でも……」
「上げないならば、今後一切、お前とは縁を切る。それでもか?」
縁を切ると言われてしまっては顔を上げないわけにはいかない。涙を溜めた穣の目を修平はじっと見つめた。穣にとって数秒が数刻にも感じられるほどの時間だっただろうが、それは修平の笑顔で終わりを告げる。
「お前にはまだしてもらわなければいけないことがある。あいつらと一緒にこの国の未来を支えていくんだ。こんな小さなことで頭を下げてたら、いくつ頭が合っても足りないぞ。わかったらさっさと立て」
そう言って修平は穣に手を差し出した。
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