後始末Ⅵ
だが、どんなに強く掴もうとも術の施された牢の格子はビクともしない。格子の間から手を伸ばそうとしても、修平には決して届かない。
「いや、ここまで予想通りの反応をするとはな。広之殿、これで満足か?」
もはや、僧正は呆れを通り越して話すのも億劫だと言わんばかりの顔で言葉を絞り出す。対して、広之は満足とも不愉快とも読み取れない能面のような顔で枝双を見た。
「……ふむ、これはもしかすると、尋問を急いだほうが良いかもしれませんな。妙な気配を感じます」
「どういうことだ?」
僧正は広之の変わりように驚きながらも、その言葉の真意を探る。
少なくとも、僧正には目の前の偽物の修平が明らかにおかしな言動をしているようには思えなかったようだ。
「前にお話しした時に、孤面族の首魁は考えなしな傾向にある、と言ったことを覚えていますか?」
「あぁ、行き当たりばったりな行動が多いとは、我も言った覚えがある」
「もしかすると、この変化の術。肉体ごと変化している影響で、中身まで変化している可能性があります。それも劣化という形で」
劣化、と聞いて枝双がさらに狂犬のように暴れて牙を見せるが、広之は全く気にせずに言葉を続けた。
曰く、「肉体構成を変化させる過程で、記憶や精神といった中身まで変化してしまっているのかもしれない」と。
「では、何だ? こいつらが変化をすればするほど情報が失われていく可能性があるとでも?」
「それならばいい方です。最悪、今、こうしている間にも彼の記憶が薄れて行っているかもしれません。そうなれば、僧正殿の天耳通を以てしても嘘は見抜けなくなるでしょう。何しろ、本人が真実だと思い込んでいるのですから」
孤面族を名乗る者たちの全貌を明らかにしなければ、雛森村のように襲われる可能性がある。いや、襲われていると気が付けているならば、まだ幸運だ。気が付かれずに既に成り代わられていたら、それを暴き出すのに一体どれだけの労力が必要になるのか想像すらできないからだ。
「おい、俺をさっさとここから出せ」
「出してあげますとも。必要な時が来ればすぐにでも、ね。だから今は静かにしていてください」
広之は振懐からお札を一枚取り出すと、格子の隙間から覗いている枝双の額目掛けて、それを投げつけた。お札が張られた修平の体が電気が流れたかのように跳ね上がる。すると、次の瞬間、完全に脱力して床へ倒れていってしまった。
倒れ伏した枝双を見下ろして、広之はため息をつく。
「興奮した状態では話もできません。ここは一度、時間を置くしかないでしょう。可能な限り、早くしたいので四半刻もすれば大丈夫でしょうか?」
「……あまりにも喧しくするならば、黙らせるくらいは手伝えますぞ?」
「張継殿の場合、黙らせるに留まらず、そのまま二度と話せなくなる可能性がありますが?」
「ははは、なかなか面白いことを陰陽師殿は言いますな。得意なのは剣術だけではないことをお見せするべきか……」
張継の目に怪しい光が宿るが、それを僧正は制するように両手を軽く上げる。
柔術か何かで取り押さえ、怒りを苦痛で打ち消す光景が僧正の脳裏に浮かんだ。それほどまでに張継のもつ武術の幅は広い。僧正自身も多くの武器を扱い、体術にも精通しているが、張継もそれに負けず劣らずと言ったところだ。
武芸十八般などという言葉があるが、張継は剣術というカテゴリーだけで見ても、四方位貴族それぞれの剣術の免許皆伝の位にある。
短命な人の身で修められるとは到底思えない量であるが故に、僧正自身も純粋な武術勝負になれば、もしものことがあるかもしれないと思っており、一目置いているほどだ。
見た目とは裏腹に、その身に宿した豪傑ぶりは、少なくとも目の前に転がる孤面族には荷が重すぎる。ここにいる誰もがそれを理解しており、きっと手加減はするのだろうと思いながらも、心のどこかであっさりと枝双が命を落としてしまうかもしれないと危惧していた。
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