後始末Ⅴ
一方、牢の中で修平に化けた枝双は、外面こそ無表情で座禅を組んでいたが、内心では勝ちを確信したも同然と喜んでいた。
このまま牢獄から出されたら、まず最初に何をするべきか。少なくとも、修平がこの儀において伴侶を得ているということはないので、その点において楽しみが無いのは幾分か不満が残る。しかし、その反面、東雲家の有力な家臣の一人として潜り込めるのは、今後の孤面族の活動を活発にするための大きな第一歩になるはずだ。
模倣した力をどのように活かして、地位を高めていくのか。そんな妄想に耽っていると、地上へと続く階段につながっている扉が開く音が聞こえた。
「――――やぁ、修平君。長い時間、ここで待たせてしまってすまなかったね。色々と手こずったが、この村に来ていた孤面族は撃退することに成功した。朝凪家の真行も衰弱こそしているが、無事に保護されておる」
張継は牢の前で、そう告げた。
枝双はにやけそうになる顔を引き締めたまま、瞑想の姿勢を崩さない。仲間はみな逃げ出せたか。死者は双方にどれくらい出たのか。そんなことを考えていると、張継が更に言葉を続けた。
「よって、『夜掛けの儀において真行を殺した』という罪は消え、国家転覆の可能性すらあった孤面族の成り済ましを暴き出し、成敗するという功績を成し遂げた。褒められこそすれ、それを批難する者はこの村にはいないはず」
ここに来て、僅かに枝双の口元がピクリと動いた。やはり、自分が思い描いていた展開が訪れたのだと心臓が高鳴るのを感じる。
ここを出たらまず何をするか。まずは上手い飯を食う。女は下手に手を出すと面倒なことになるので、しばらくはお預けだ。そうなると、出来ることは東雲家に仕官する際の準備をすることくらいしかない。少しばかり退屈な日々が続くだろうが、それもほんの少しの我慢だ。
ほんの少しの時間で、目まぐるしく脳裏に様々な思惑や欲望が駆け巡る。そんな中で、まだ張継の言葉は続いていた。
「長い間、人目のない場所で息を潜めているのは辛かっただろう。だが、これも村の為、国の為だ。どうか許してほしい」
牢という外部と隔絶された場所であっても、衣擦れの音一つ響かない。恐らく、張継は自分をまっすぐに見て、声をかけているのだろう。枝双は修平ならば、どのような言葉を返すのかを悩んだ後、何とか考え着くことに成功する。
「お気になさらないでください。この村の若衆として当然のことをしたまでです」
「――――――――は?」
まさしく、それ、という言葉を耳にして、自分の考えていた言葉と一致していたことに納得したのも束の間。その言葉が聞こえるはずのない声であったことに枝双は驚かずにはいられなかった。
反射的に目を見開く。壁の魔法石の光といえども、ずっと目を閉じていた自分にとっては太陽のように眩しく感じる。
だんだん目が慣れてくると、そこにいたメンバーの中に予想だにしない顔があり、枝双は表情が固まった。
「やぁ、孤面族の生き残りよ。自ら檻の中に飛び込んで、我々を騙し切った気になっていた気分は最高だっただろう? ほれ、まだ時間はたっぷりある。こちらはこちらで会話を続けるから、妄想の世界に浸っておると良い。それとも、もう夢を見るのには飽きたかな?」
芝居がかった口調で張継が問いかける。
そんな彼の横には尾兎無が処理したはずの修平が堂々と立って、枝双を見下ろしていた。
「な、ななな――――」
「『何故、お前がここにいる』などと下らないことを言ってくれるなよ。流石の俺も笑わずにはいられなくなりそうだからな」
そう言いながらも、既に修平の口元は僅かに上がっていた。
「何故だ。何故、お前がここにいる!? 生き残りとはどういうことだ!?」
立ち上がった枝双は、目を血走らせながら格子を今にも壊さんとばかりに両手で掴み、修平を睨みつけた。
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