後始末Ⅳ
村の外へと出ていた者たちが全員戻ってくる頃には、修平も落ち着きを大分取り戻すことができた。
勇輝たちは修平を連れて、広之に促されるまま張継邸へと向かう。門の所では、金囲との戦闘を見ていたのか。張継が腕を組んで立っていた。
その姿が以前見た時と違い、幾分か背筋が伸びて雄々しく見えたのは勇輝の勘違いではないはずだ。
「ようやったの。陰陽師殿」
「みなさんのおかげですよ。それよりも、私は村長殿が参戦しなかったことに驚きました」
広之の言葉に張継は、一笑に付す。
「老体に鞭打って、刀を振れと? 真っ先に死ぬのは間違いなく儂じゃな」
「何をおっしゃっているのですか。強敵と出会う機会がないと嘆いておられたのは、遥か昔とでも?」
「あぁ、偉い立場になるとなかなかに前に出ることができなくなる。嘆かわしいことだ」
首を振ってため息をつく張継だったが、ほんの一瞬だけ、その目に獣のような眼光を宿らせた。
「――――そんなものが無ければ、真っ先に斬りかかっていたのに」
今まで感じたことのない悪寒が勇輝の背中を駆けのぼる。自分が斬られていないか思わず手で腹を抑えたくなるほどの殺気。へその下の辺りに氷でも突っ込まれたように体温が下がるのを感じながら、勇輝は唾をごくりと呑み込んだ。
「さて、ここに来たということは、例の牢の中に自ら飛び込んだ哀れな孤面族に用があると見た。僧正殿も一緒に行かれますか?」
「行かぬわけにもいくまい。勇輝、お主たちはどうする? ここから先は我と広之殿。あぁ、それと化けられたお主も悪いがついて来てもらう」
僧正は気の毒そうな視線を修平へと向ける。
指名された修平はというと、相変わらずの冷静な表情で承諾した。勇輝はというと、桜に孤面族を近寄らせたくないと考え、この場に留まることを提案する。
「わかった。ここからは我々三名と張継殿で中へ向かう。お主たちは少しここで休んでおれ」
そう告げると僧正たちは張継の後を追って、屋敷の中へと入って行った。
姿が見えなくなり、門番や中の見張りの人員だけになると、桜の体がふっと落下する。
「お、おい、大丈夫か?」
「あ、ごめんなさい。さっきの張継さんの気に当てられちゃったみたい」
腰が抜けたようで、地面にへたり込んだまま立ち上がれない。勇輝が咄嗟に掴んだ手は微かに震えており、相当な衝撃を受けたようだった。
勇輝は桜の手を握ったまま、すぐ後ろにある階段へと腰掛けるように促す。そして、そのまま勇輝もその隣へ腰を下ろした。
「初めて、この村に来た時に張継さんやまとめ役の当主の二人に殺気を浴びせられたんだけど、あれって俺だけに器用に向けられてたんだな。……怖かっただろ」
「うん。殺気っていうのは、ああいうのを言うんだね。私、自分の首が繋がってるか確かめちゃったもん」
そう言いながら、桜の右手の指は己の首をなぞっている。当然、斬られた跡どころか薄皮一枚すら傷ついてはいない。だが、勇輝にはその気持ちが痛いほどわかった。
「俺も今、腹を斬られたんじゃないかって錯覚したくらいだ。張継さん、多分、凄い強いんだろうな」
「村長は、ここに来る前は水皇・水姫様の剣術指南役の一人だったとか。むしろ、あの殺気を喰らって立っていられた君たちの方が凄いぞ」
背後にいた門番の男性が話しかけて来た。振り返ると、その頬には冷や汗が伝っており、顔色もかなり悪く見える。
「もしかして、さっきの戦いの間、ずっとここで?」
「あぁ、ここを離れるわけにはいかなかったんだが、ずっとここで村長が鯉口を切っては納め、切っては納め――――正直、生きた心地がしなかった」
どうやら、門番の人は今の一瞬ではなく、かなり長い時間、張継の殺気を浴びていたらしい。それも、刀の届く距離で。その事実に気付き、勇輝も桜も自分のことを忘れて、表情が強張ったままの彼を気の毒に思ってしまった。
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