後始末Ⅲ
九重たちが去ると、周囲に安堵の声が漏れる。
張り詰めていた空気もすぐに薄れ、体も何だか軽くなったように感じた。
「さて、残る問題は二つ。牢屋に本物の修平と思わせようと潜り込んだ孤面族。そして、もう一つは真行と呼ばれる若衆か」
前者に関しては、洗いざらい知っていることを吐いてもらう。後者に関しては、ただ一つ。何故、このような状況になったのかを問いただす。
運悪く一人でいたところを拉致されたのならば仕方がないが、もし国を裏切るつもりがあったのならば、死罪などでは到底済まされない。その場合は、本人だけでなく一族郎党が処刑されてもおかしくはない。
「まだ、あの者は自力で話せる状態にはないだろう。かなり衰弱をしていたようだから、回復次第、話を聞こう」
「では、向かうは張継殿の家ですね。はてさて、目の前に本物が現れたら一体どんな顔をするのか。少し、興味がありますね」
「お主、趣味が悪いぞ」
「かつては、よく言われておりました」
僧正に苦言を呈されても、全く意に返さない広之。流石の桜も自分の父親とはいえ、苦笑いを浮かべることしかできなかった。
過去形であるということは、想像するに海京の城に努めていた時のことなのかもしれない。
「――――何せ、あそこはやっかみも多いですからね。舌戦はもちろん、腹が黒くなければやっていけない伏魔殿のようなところですから。国として向かうべきところは見えているのに、個人のくだらない欲で足の引っ張り合いなんて日常茶飯事。正直、あそこから離れられて清々しています。だから、あなたたちには陰陽師の道はあまり進めなかったのです」
そう言って、広之は桜を見る。
「ましてや、それが女ともなれば差別を受けるのは必至。そんな中で、あなたは陰陽師という枠に縛られずに外へと羽ばたき、杏子は陰陽師という枠に収まりながらも新しい道を見出した。私の想像を超える成長をしたことに驚きを隠せません。そして、それは同時に私の誇りでもあります。今まで以上に胸を張って、あなたたちを自慢の娘だと公言できる」
「ちょ、ちょっと、お父様。急に何を言い出すの? ほ、ほら、村の人もいっぱいいるじゃない」
急な父親の誉め言葉に、顔を真っ赤にしながらしどろもどろになる桜。視線はあちこちに彷徨った挙句、最終的に助けを求める視線は勇輝と僧正に行きつく。
当然、僧正は軽くため息をした後に、勇輝へと視線を送った。当然、勇輝はその意味を正しく受け取る。即ち、「お前の嫁のことなのだから、お前がどうにかしろ」と。
「えーっと、自分の親にそこまで褒められるってことは、あまりないことだと思うし、素直に喜んだ方がいいんじゃないかな?」
「え、そ、そうなのかな? 喜んで、いい、のかな?」
当たり障りのない方向で勇輝が答えると、桜は混乱しながらも視線を広之へと戻す。
会話の最中に垣間見せた物憂げな表情はもうない。あるのは娘を応援しようとする柔和な微笑だけだ。
「ごほんっ、さて、親子水入らずなのは非常によいことではあるが、目的を見失ってはいかん。広之殿、ちょうどお主が考えていた『牢屋の中で本物が現れる』というのを行うために、必要な主役が戻ってきたようだぞ」
僧正が示す先には、肩で息をしながら歩いて来る修平の姿があった。半日、かけて港町まで走り続ける体力がある彼が、ここまで息を切らしているとなると、相当な早さで走ってきたことが伺える。
修平は僧正や広之の姿を見つけると、再び速度を上げて駆け寄って来た。
「お二人とも、こちらで何か戦闘があったように見受けられたのですが……」
「安心してください。脅威はもう去りました。後は、成すべきことを成すのみ、といった段階です」
広之の返答に修平は安堵したようで、両膝に手を置いて大きく肩を揺らしながら呼吸を整え始めた。
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