後始末Ⅱ
桜の言葉に、僧正はずっと黙っていた広之へと視線を向ける。
「お主、いくらなんでも我にまで秘密にしておくことはあるまい。我だから良かったものの、場合によっては戦闘になりかねんぞ」
「僧正殿は、そのようなお方ではありませんし、こちらのお方も協力してくれた恩人にそのような無粋な真似はしないと考えたまで。もちろん、こちらとしては奥の手な上、村の人々に知られていたら……ねぇ」
そう言って、広之は奇異と警戒が入り混じった視線を向ける村人たちを見やる。すぐに彼らは視線を逸らすが、数秒もすれば同じ視線を向けるだろう。
「人ならざるものは善悪関係なく、そのような目で見られがちです。でも、仕方がないでしょう。私たちだって、仲間が大勢いる中に人間が一人迷い込んだら、同じような目で見ますもの」
「人だって、獣だって、考えることは一緒。だから、気になりはするけど、怒ったりはしないよ?」
白炉も九重に続いて頷く。
機嫌を損ねていないことに勇輝たちは安堵するが、懸念点が一つあった。それは孤面族の生き残りである枝双の存在だ。
僧正たちは一人でも生きていれば、情報を得ることができるということで、阿上たちとの戦闘では殺すことを前提に戦っていた。それに対して、九重は己の姿を盗み、妹も含めて傷つけられた復讐のためにわざわざ迷宮から雛森村まで訪れた。
残りの一人をどうするべきかは、議論を交わしたとしても平行線のまま終わることが推測できる。僧正は、その点が気がかりだったのか。直球でその問いを九重にぶつけた。
「私に化けた奴は直接懲らしめたいとは思っていましたけど、生存者はこの後、どうなる予定ですか?」
「何事も無ければ、首都である海京に移送。取り調べが行われた後、判決が下されることになります。まぁ、やったことがやったことですので、死刑を免れるかは難しいでしょう。場合によっては、この場で殺されていた方がマシ、ということもあり得ます」
「そう。それならば、私はその者がどうなろうと気にしません。尤も、途中で逃げられるなどという失態が無ければ、の話ですが」
広之の捕捉に九重は条件付きだが納得をしたようだった。
恐らく、殺されていた方がマシ、という発言が彼女の背中を押す一言になったようだ。
取り調べとは名ばかりで、四方位貴族である國明や村長などの証言からすれば、罪を犯したことは明白。故に、動機や他の仲間の居場所などを聞き出すための拷問が行われる可能性が高い。
勇輝は時代劇で見たような水車に括りつけられて行われる水責めやギザギザの板の上で正座させられる石抱を脳裏に思い浮かべた。想像するだけでも身震いがする。
「一応、その者を確認されますか? 姿はこの村の者に変わっていますが」
「いえ、興味ありませんので、後はそちらでお好きになさってください。久方振りの外出と術の使用で疲れてますので、私たちはお暇させていただきます」
白炉を撫でながら満面の笑みで立ち去ろうとする九重。しかし、途中ではたと足を止める。振り返って、勇輝の顔を見つめた。
「そういえば、次に会う時にお名前を聞くことにする、と言いましたね。そちらの少女は桜という可愛らしい名前でしたが、あなたは?」
そう言えば迷宮で別れ間際に、そのような言葉をかけられたことを勇輝は思い出す。果たして、自分の名前を伝えていいものなのか。一瞬、悩んだが、桜が伝えているならば問題はないと考えて、勇輝は口を開いた。
「内守勇輝です」
「内守? あぁ、どこかで聞いたことのある響きだと思えば、巫女のお婆様の血縁者ですか。それはまた……」
九重は含みのある言い方をしながら、口元に手を当てる。
「改めて、あなたには自己紹介を。私は九重。九尾の狐の九重。もちろん、偽名ですが」
そう名乗った後で、フッと妖艶な笑みを浮かべて目を細めた。
「あなたもお婆様も強い力を持っているようですね。『力を持つ者は、力ある者を呼び寄せる』。精々、身を滅ぼさぬよう、お気をつけなさって」
パチリ、と指を鳴らすと二人の姿が炎となって、紅葉のように風に流され、消えてしまった。
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