後始末Ⅰ
村からの轟音を聞いて、勇輝たちが急いで駆け付けた頃には、既に金囲の息の根は止まっていた。
何事かと蜻蛉が確認に急ぐ中、僧正は桜の横に立つ九重をじっと見つめていた。
「誰かと思えば、九尾の狐か。では、途中で見かけたのも、やはり眷属だったようだな」
「あらあらあら、誰かと思えば鞍馬の天狗様では? こちらにいらしていたなんて知りませんでしたわ」
変化を解いた僧正が話しかけると、九重は頭部の狐耳を立てて、目を丸くする。
顔見知りのような話し方に、思わず勇輝も桜も唖然としながら二人の様子を見守るしかない。
「世俗の喧騒に疲れた、というところだ。一応、寺の方はしっかりとやってくれているだろうから問題はあるまい。我が何かしたところで余計な世話になるだけだ」
「……あ、あの、もしかして、お二人はお知り合いですか?」
桜がおずおずと問いかけると、二人は一瞬顔を見合わせた後、同時に言い放った。
「えぇ、もちろん」
「いや、そんな親しい仲ではない」
正反対の答えが返ってきて、桜だけでなく、勇輝も戸惑いの表情を浮かべたまま固まってしまう。
当然、ここで抗議の声を上げたのは九重だ。
「ちょっと、それは酷くありません? あの時、行き倒れた私を甲斐甲斐しく看病してくださったではありませんか」
「お主が怪我をして、赤子のように泣き喚いているのが五月蠅くて、仕方なく、だ。それ以上でもそれ以下でもあるまいし、一体、何年前の話をしておる」
ここで何十年、何百年と言わなかったのは、僧正なりの優しさだろう。或いは、人外でも年齢の話はタブーであることの証左かもしれないが。
僧正の取り付く島もない対応に九重が頬を膨らませていると、後方から一匹の狐が走って来た。
「お姉様。今、帰りました」
そう言いながら狐が、九重の胸へと飛び込むと白い煙を立てて、少女の姿へと変わる。九重と同じ髪色、肌だが、幾分かその輝きと体の大きさは劣る。九重が成人女性なら、彼女は小学校高学年に差し掛かるかどうかといった容貌だった。
「……まさか、この子って、あの時の」
「そう、私の妹の白炉よ。もちろん、偽名だけど」
満面の笑みで、白炉と呼ばれた少女を撫でまわす。傍から見ると、かなり年の離れた姉妹に見えるが、仲睦まじい光景であることは間違いない。ただ、二人がとてつもない魔力を秘めた妖。或いは神獣であるとわかれば、気が気でなくなるのは当然のこと。
実際、離れたところからは、男たちが警戒をして様子を窺っているのが見える。自分たちの村にいつ暴れるかわからない存在がいれば無理もない。
「しかし、だ。お主が、こちら側に来ていたのは良いとして、何故この村に?」
「それこそ、この村の人たちと同じです。私の姿を盗んで、あちこちで悪さをしていた奴らを懲らしめにきました。ちょうど、彼女からその存在を教えて貰ったので、千載一遇の機会を逃してはいけないと思って」
僧正は九重と既に知り合いだったことだけでなく、桜が連絡を取っていたという事実には驚かきで目を丸くした。それも思わず首があり得ない速度で回り、桜を凝視するほどに。
「あー、そういえば迷宮の中で別れ際に困ったら言う様に、とは言ってたけど。桜、もしかして、それで?」
「うん。一応、村の人が困ってたし、お父様も本調子じゃなかったから。それに孤面族の名前は九重さんから、聞いたことだったから見つけたことを伝えておいた方がいいかなって」
その結果、孤面族の居場所を聞いた九重、白炉の二人は迷宮を抜け出して、雛森村まで駆け付けたということらしい。
そこまで聞いて、勇輝はこの件が明るみに出る前に白炉らしき狐を境内で見かけたことを思い出した。あれが彼女だとすれば、相当早い段階で桜は二人に連絡をしていたことになる。
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