因果応報Ⅲ
「おじさん。私のお父さんのことも知ってるんでしょう? だったら、こういう使い方だってできることくらい気付かないとね」
「貴様っ!」
少年の首へと突き付けた刀を思い切り引く。刃が首へスルリと滑り込むが、まるで豆腐でも斬り裂いたかのように肉どころか骨の感触すら返ってこない。
「――――雀蜂。やれ」
「はっ」
少年の首がだらりと垂れ下がり行く光景に眉一つ動かさず、國明は隣にいた雀蜂に命を下した。
言葉短く返答した雀蜂は、流れるように刀を抜刀すると同時に金囲へと接近する。
「(早いっ!? だが、この体なら間に――――)」
すぐさま刀を返して対応しようとした瞬間、左手に握っていた少年が白煙を巻き上げて四散した。いや、少年自体が白煙となって消え失せた。
「(こいつ、式神だったのか!?)」
國明の言った「殺すことなどできはしない」の意味。それを金囲は勘違いしていた。
殺す前に自分を殺すから殺せない。或いは、自分には殺すだけの度胸がない。そういった類の言葉だと思っていたが、実際は、「人間ですらない非生物を殺すことなど元から誰にもできはしない」という意味だった。
「(まずい、前が見え――――)」
白煙に視界を塞がれ、雀蜂の位置を見失った。下手に対応しようとしたせいで、態勢としても回避するには不十分。そんな思考が走り切らぬ内に、白煙の一点を貫いて、白刃が飛び出してきた。
「げぐっ!?」
あまりの衝撃に自身の意志とは関係なく口から変な音が漏れる。金囲は遅れて、自分の喉に刀が刺さっていることに気付いた。
突き刺さるだけでなく、頸椎の隙間を貫通し、後ろへ突き抜けている。その際の衝撃で頸椎自体も損壊し、もはや生きていられるのも時間の問題だ。
雀蜂は片足を金囲の腹に当てると、一息で蹴り飛ばして刀を抜く。宙を鮮血が舞い、白い漆喰の壁に跡を残した。
「ごぼっ、がぼっ……」
金囲は仰向けに倒れたまま、口から血の泡を吹き出し、声にならない声を上げる。
その様を見ながら國明が雀蜂の後ろから声をかけた。
「お見事。突きに関しては、やはり筋が良い。君の兄上は袈裟斬りに斬るのが非常に上手かったが、君の場合は昔見た時に思った通り、突きは私を上回るかもしれないな。例え喉を守っていても、首の骨が耐えられないほどの威力だった」
「ご冗談を」
「いやいや、冗談じゃないさ。いずれ、君の突きに追いつけるようにならねばならない。しかし、妙だな。もう少し張り合いのある相手だと思って警戒していたんだが、これでは数人もいれば片が付いていた。拍子抜けとは、まさにこのこと――――」
そこまで言って國明は、倒れた金囲に目を奪われた。
喉からの大量出血、折れた首、明らかに致命的な一撃を喰らっていたはずだ。それにも拘わらず、金囲は四肢に力を入れて、地面から起き上がっていた。
「ほう、しぶといな。しかし、鬼ならばいざ知らず、首を斬り落とされれば人は死ぬ。やれ」
塀の上にいる者に國明が指示を出すと、四つん這いになって逃げようとする金囲の横へ一人が降り立った。
「せめて一息に楽にして進ぜよう」
そう告げると刀を振りかぶり、何のためらいもなく、呼吸するかのように振り下ろした。
「…………っ」
血を吐き出しながら金囲が何事かを呟いたようだが、それは誰にも聞き取れなかった。
首が落ちて地面に転がる。國明はその顔と目が合った瞬間、総毛立つのを感じて身構えた。
「全員、距離を取れ。こいつ、まだ何かしてくるつもりだぞ」
転がったまま凶悪な笑みを浮かべる自身と同じ顔の金囲の頭部。その目がぐるりと瞼の裏側へと移動した瞬間、空気が揺れた。
巨人の張り手を受けたような衝撃に、思わず顔を庇いながら、後ろへと下がる。次に目を開いた時、國明たちは目の前に飛び込んで来た光景に思わず息を呑んだ。
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