因果応報Ⅱ
「おい、坊主。曲がるのが早いぞ。赤桐さんの家はもう一本向こうだろ」
「ううん、ここであってるよ」
一本道の半ばまで進んだところで金囲は足を止めて、少年に諭そうとする。しかし、少年は振り返ると首を横に振った。
「おじさんが進む道は、ここであってるんだ」
「――――まさかっ!?」
嫌な予感に少年の腕を引き寄せる。
同時に道の両側、塀の上。更には、その向こうに見える家の屋根の上にまで刀を抜いた大人たちや若衆が姿を現した。
「くっ、油断した。まさか、こんな少年を囮にする鬼畜共だとは思わなかった。敵を倒す為なら犠牲をも厭わないか」
「悪いけど、この村の者たちは君たちと違って、そこまで性根は腐っていない」
「お前は……!?」
村の中心に繋がる側。大人たちの集団が二つに割れ、國明の姿が現れた。
「もちろん、戦う覚悟のある者は命を捨てる覚悟がある者。それは老若男女の如何を問わずに私は認める。尤も、それは捨て駒を許容することと同義ではないがな」
南条家の嫡男が出て来たことに動揺を隠せない金囲だったが、頬を引き攣らせながらも笑みを浮かべた。
苦し紛れの笑みにしては、どこか余裕を感じさせるものがある。國明は不審に思ったのか、歩みを止めた。
「は、ははは。捨て駒を許容しない!? 笑わせるな。ならば、この状況をどう説明する」
金囲は少年を力づくで抱き寄せて持っていた刀を首筋に当てがった。柔らかい肌に刃が僅かに食い込み、今にも皮膚が割けて赤い雫が凍れ落ちそうに見える。
「興味深いな。変化の術は本来、姿かたちを真似るだけで武器まで複製できるものではない。大陸の魔物には、装備を含めて複製するものもいると聞くが、その類ではないのだろう? 服の外見だけならいざ知らず、そこまで精巧に作り出せるのは敵ながら見事という他ないな」
「揶揄ってんのか? この刀が偽物や幻術じゃないってことを証明してほしいみたいだな?」
「いや、偽物に違いないさ。俺たちが使う心刀は、俺たち自身にしか扱えない。体は真似できても、ここまでは真似できないからな」
そう言って、國明は己の胸を左の拳で力強く叩いた。だが、金囲は笑みを崩さない。更に持っていた刀を少年に食い込ませて威嚇する。
「だが、刃がついていることには変わりない。この首から鮮血を噴出させるのは容易いだろう。お前のせいで、このガキは死ぬんだよ」
そう告げた金囲の姿が國明のものへと変わる。
國明の表情がここに来て初めて強張った。それは周りにいた村の人間も同じようで、ざわめきが広がる。
「広之殿が言うには、そちらの変化の術は大きな負担がかかるとか。変化していられる時間が限られるか。或いは次に変化するまでに時間を置かねばできないとのことだったが……」
「はっ、悪いな。俺たち孤面族の力は変化の術というくくりでは同じだが、各々の能力には違いがあるんだよ。俺の場合は、人間以外でも変化する対象になるってところが大きい所でな。変化の術が得意な奴に化けられたおかげで、こうやってそいつの能力で何度でも化けることができるのさ」
「なるほど。他人のふんどしで相撲をとって、ふんぞり返っているわけか。その厚顔無恥さは、手に負えないな」
それでも國明は、少年のことなど意に介していないようで、挑発に近い言葉を投げかける。いや、むしろ、ここまで言い切ってしまっているあたり、本当に挑発しているのかもしれない。
金囲は、そのことに一抹の不安を覚えた。もしや、この少年ごと自分を斬って捨てるつもりなのではないか、と。
國明が再び歩み始める。数歩進む間に金囲はジリジリと後退をするが、下がった所で後ろにも多くの村人が刀を手に待ち構えている。化けた國明の身体能力を以てすれば、塀を跳び越えることは容易いが、その先にも逃げ場はない。
「(こうなってしまっては多勢に無勢。予定より早いがアレを解放するか)」
金囲が刀を握る手に力を込めた瞬間、國明が思い出したように呟いた。
「そういえば、さっきの質問に答えていなかったな。『この状況をどう説明する』だったか? 悪いな。その少年を殺すことなど絶対に出来はしないから囮にしたんだ」
「――――!?」
驚く金囲が見下ろすと、いたずらっ子のような笑みを浮かべる少年と目が合った。
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