狐狩りⅦ
「……これが最後か?」
「いえ、恐らくあと一人、村の方へと向かっているかと」
「そうか。それならば安心だ」
修平の後ろからやって来た子式の分身は、阿上に施したように水球で尾兎無の死体を包み込んだ。
「安心、というのは?」
「村には赤桐の奴がいる。だったら、任せても大丈夫だろう。恐らく、南条の出る幕ではない」
「意外ですね。卯式に聞いた話では、手負いの勇輝様と同程度の身体能力と聞きましたが」
子式が首を捻ると修平は頷いた。
「それは百鬼夜行のような敵が集団で襲い掛かって来た時だろう。あいつの得意技は諸刃の剣だ。相手が複数いると自分が危機に陥るからな」
「よく知っているようですね。南条家と東雲家で違う家に仕官するというのに」
「違うからこそだ。万が一、南条家が謀反を起こせば、戦わなければいけないことになるからな。それは東雲家側も同じことだが」
少しばかり大っぴらに言うべきことではない事実を呟き、修平は刀を納めて背を向けた。
「どちらに?」
「俺がいても邪魔になるだけだ。この時期ならば魔物の活動も少ない。仮に襲われても、そちらで対処できる範囲だろう」
そう言うや否や修平は走り出した。
修平が走り去るのを見送って、子式はため息をつく。
「安心だ、と言いながら急いで村に向かう辺り、やっぱり心配なんじゃないのかな? まぁ、わっちはやるべきことをやるだけだけど」
呟いた矢先、子式は動きをピタリと止める。
それは目の前の尾兎無の死体の処理に不手際があったわけではない。突如として、言之葉邸の警備をしていた午式から思念が飛んできたからだ。
「桜ちゃんが家を飛び出した!? 一体、何やってんのさ!?」
それは子式だけでなく、他の式神からも即座に批難の声が飛んでくる。しかし、その中に肝心の広之の声はなく。また、一番近くで護衛していた卯式も同様だった。
「(まさか、これも作戦の一環? 主なら敵を騙すにはまず味方から、とか普通にやるし、あり得なくはないけど)」
邸の中には未だに白銀の風のメンバーや泉子、杏子もいる。他の式神たちが勝手に持ち場を離れるわけにはいかないので、広之に指示を仰ぐが、返って来るのは当初の予定通り行動すべしの一点張り。
そもそも、広之の気もそこまで回復しているわけではない。仮に式神を動かしたとしても、あと一、二人が限度だろう。それに何より、阿上と尾兎無の二人が逃げ出した場所にいた分身体から入手した情報に気になることがあったことを子式は思い出す。
「『仮に逃げおおせたとしても、彼女から逃げきれるか』って、一体、誰のことだろう?」
式神の女性は子式、丑式、卯式、未式、酉式、亥式の六人。しかし、子式自身は死体の処理を任されており、助けには行けない。
酉式以外は屋敷の護衛に回っているし、そもそも酉式は村から遠く離れた場所で情報収集をしている為、駆け付けられるとは限らない。術式を一度解除して、呼び出し直すという方法も使えなくはない。しかし、その分だけ膨大な気を消費するので、今の広之には厳しいだろう。
そう考えると、広之の言う「彼女」は式神ではない。可能性として挙げられるのは泉子だ。
「逃げたくても逃げられない、と捉えるならば、もしかすると泉子様の結界の術式が完成している?」
だが、それでは桜が屋敷を出る理由にはならない。
仮に敵を村に足止めさせるためだったとしても、村には十分な戦力が用意されている。わざわざ桜が出向かなくてもいいはずだ。
そんなことを考えていた矢先、空気が震えるのを子式は感じ取った。物理的な震えではなく、魔的な震え。膨大な魔力、気が一瞬で放出された際に起こる現象だが、それは村の方からのように思える。
桜の安否を気遣いながらも、子式は急いで死体の処理を進めるのだった。
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