狐狩りⅥ
思考が追い付かない中、真っ先に考えたことは、やはり修平が生きていたことについてだろう。気絶している修平を寝かせて首を掻ききった上に、背中から何度も刀を突き刺した。あれでどうやって生きて居られるというのだろうか。
尾兎無が戸惑いの表情浮かべていると、修平は目を細めた。
「方法は簡単だ。お前たちと同じことをしただけだ。俺がやったわけではないから、偉そうに説明するのはお門違いだけどな」
「俺たちと同じ、だと!?」
聞き捨てならない言葉に尾兎無は声を荒げる。しかし、更に迫る切っ先に慄いて、再び後退った。
修平は牽制しながら尾兎無を交代させると、足元に転がった尾兎無の刀を後方へ蹴り飛ばす。
「お前たちが牢に入った時には、既に俺はそこにはいなかった。では、お前が牢から連れ去ったのは一体誰だったのか?」
「――――まさか!?」
「そう、そのまさかだ。あれはお前たちが襲った陰陽師殿の式神だ。正確には、俺の姿を真似ただけの何の能力も持たない動く人形だが、それでも噴き出る血や肉の感触は、本物そっくりだったはずだ。僅かな時間で、あそこまで精巧に作ることができるとは、術士の上位に位置する者たちというのは本当に恐ろしいと言わざるを得ないな」
修平は自嘲気味な笑みを浮かべて呟く。
――――果たして、自分があの陰陽師に挑んだら、何秒耐えられるか。仮に攻撃に耐えられたとしても、広之自身に攻撃を届かせられる自信がない、と。
「いや、待て。でもお前は、俺が来た時には既に牢に入っていた。そこから、俺が脱獄するまで外に出た様子はなかったぞ」
「いや、堂々とお前の前を通っていったさ。目隠しをしていたからわからなかっただろうが、姿を隠す蓑があっただろう。あれを着て、こっそり外に出た。式神にはそこで入れ替わってもらった」
そんなことがあるはずがない、と尾兎無は絶句する。自分が牢に放り込まれた後、確かに修平の牢に僧正と呼ばれた男が入っていったのは覚えていた。
しかし、そこで一瞬にして入れ替わるという早業をやってのけるなど想像できるはずがない。自分の体を模すならばともかく、全くの他人となれば、その難易度も跳ね上がるはずだ。
尾兎無はこの時、気付けなかったが、広之はあの場に居合わせていない。僧正の懐に自らの分身である式神を隠し、牢に入ると同時にそれを修平へと変化させるという物理的な離れ業も同時にやってのけている。
もし、この光景を他の陰陽師や術士たちが見ていたならば、諸手を挙げて賞賛するほどの技術であったことは間違いなかった。
「さて、おしゃべりはここまでだ。いい加減、赤桐の姿でそんな無様な姿を晒されるのは、同じ四方位貴族に仕える者として我慢ならん」
「くっ、もっと強い体を模倣していれば、お前なんぞに……」
「何を勘違いしている。あいつは一対一の戦いであれば、俺なんかよりもずっと強い。それを活かせなかったお前が悪いだけだ。まぁ、あいつの動きを見慣れていたという点では、確かに他の体の方が良かったことは否定はしないが」
そう告げた修平は切っ先を下ろすと、振り返って背後にある刀を拾い上げる。その刀身を軽く見た後、尾兎無へと投げた。
「何のつもりだ?」
「お前と違って、無抵抗の奴を斬る趣味はない。刀を拾わないなら仕方がないが、その信念を曲げて斬り捨てよう。それに……お前もどうせ死ぬなら戦って死ぬ方が救われるだろう?」
当たり前のことのように死ぬことを前提にした話をする修平に、尾兎無は信じられないという目を向ける。既に自分の体から血が全て抜けてしまったのではないかという程、顔が真っ青に染まっていた。
震える手で刀を持った尾兎無だったが、それを修平に向けて投げ捨てると、勢いよく背を向けて走り出した。
「ば、馬鹿が! お前のくだらない主張に付き合ってられるか!」
「では、ここで死ね」
「――――え?」
次の瞬間、尾兎無の目には首のない体の背中が映っていた。
やがて、視界が低くなり、どさりという音と共に地面が目の前に来たことで、尾兎無は自身の首が斬り落とされたことを悟る。
「――――ぁ」
死にたくない。その言葉は口から紡ぎ出されることはなく、血を吹き出しながら体が倒れた音を最期に視界が暗転した。
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