狐狩りⅣ
僅かに身動ぎしていた体が、ぱたりと動かなくなる。その死体を見下ろしながら真達は、視線を逸らすことなく、背後にいる人物に呼びかけた。
「協力感謝する。しかし、殺してしまってよかったのか?」
「はい。わっちの主曰く、『既に捕まっている孤面族がいる』とのことなので」
子式が音もなく姿を現す。
広之の指示で、分身体を配置し、阿上たちの逃走経路上に先回りできるよう指示を出していた。阿上の対応には、被害者の父である真行が一番に向かいたいと思うだろうと察していた通り、彼自身が張継経由でその旨を伝えていた。
子式は真達の隣まで歩いて来ると、顔を顰めながら阿上の死体を観察する。
「なるほど、確かに死んでも解除されない変化の術とは珍しい。体の構成ごと作り変えているならば、可能ですが、それは負担が大きすぎる。ここは未式に頑張ってもらわないと。あぁ、死体の処理はこちらでお任せください。なにしろ、主の姿のままの死体を利用されたら困りますので」
「そうか。ならば、これはそちらに任せる。私はもう戻っても構わないか?」
阿上が走って来た方向に振り返り、真達は問いかけた。
息子の真行が保護されたことは子式から知らされていたが、それでも早く駆け付けて一目見たいと思うのが親心というものだろう。
子式もそれを察してか、すぐに首を縦に振った。
「構いませんよ。周囲に怪しい存在は皆無ですので、わっち一人でも十分です。まぁ、分身出来るので実質複数なんだけど」
「ふむ? なにか?」
「いえ、こちらの話ですのでお気になさらず。真行殿の下へお急ぎください」
子式は右手に水の球を作り出しながら告げる。野球ボールくらいだった水の球はみるみる膨れ上がり、すぐにバスケットボールくらいにまで成長した。
その不可思議な術を目の前にしながらも、真達は特に動じることはない。子式に向き直ると、軽く頭を下げた。
「かたじけない」
そう告げると踵を返して、落ち葉を散らしながら猛スピードで駆け抜けていく。その背を見送った後、子式は右手の水球を死体へと向けた。
「死の穢れを屋敷に持ち込むわけにはいかないし、血の穢れもまた同じ。とりあえず、血抜きだけして、屋敷の近くまで持っていかないといけないか。はぁ、主そっくりの死体を運ぶとか、本当に勘弁してほしい……」
死体が水に包まれると、どんどん水が赤く染まりながら体積を増していく。一分もかからずに巨大な赤い血袋が死体を覆い尽くすと、子式は右手を空中で横に払う。
すると血袋がブルンと震え、横に移動した。
「うん、完璧。後は、この血をどうするかだけど、念の為、少しは回収して分析に回さないとね。後は処理するしかないかな。――――変に祟らないでくれよ」
真っ白になった顔を見て、両手を合わせた子式はもう一度、水球を発生させて死体を包む。子式が歩き始めると、そのまま死体を持ち上げ、地面を滑るように運び出した。
「どっか、植物が少ない所で捨てるか。奥様に浄化をお願いするか。どちらにしても大変だから、今は全部運ぶしかないけど……」
そう呟いた子式は、おもむろにある方角へと顔を向ける。
子式の分身はこの一人だけではない。今日、この村では阿上たちを逃さぬために、必要な分身体を配置してあった。
まだ捕まっていない。或いは死亡していない孤面族は、現状、あと二名。その内の一人は、既に捕捉し、真達のような協力者と対峙しようとしていた。
「確か入れ替わったことがバレないように、可能な限り、その相手を殺していたんだっけ? そうだとするなら、先程、この孤面族と共に逃げ出したあの人物は、一体どんな反応を見せてくれるか。少し楽しみかも」
早くもう一人の分身体から連絡がこないか。子式は引き連れた死体に辟易しながらも、どこか楽しそうにしていた。
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