狐狩りⅡ
鉄扇の先に炎が灯り、広之に向かって放たれようとする。
「あぁ、そういえば、あなたが巳式を無効化した術。こんなのではありませんでした?」
右手で人差し指と中指を立てて刀印を形作ると、それを真横に一閃する。
すると、黒い巳式が軽い音と共に爆ぜて、煙となって消え失せる。
「な、ななな……!?」
「あなたの場合、その姿で巳式が動揺したところに『返し』をしたのでしょう。私の命令であると勘違いしたまま、あなたの気を受け入れてしまった巳式は不完全ながらも、一時的に配下となった。ですが、本来の『返し』は相当な実力差がないとできません。だから、そのような暴力しか考えない悪い側面の彼しか呼び出すことができなかったのでしょうし、こうやって、すぐに私に取り返されてしまう」
自らの最大の武器を失った阿上は顔を強張らせながら、後退る。それに合わせて、蜻蛉たちは逃がしてなるものかと鯉口を切って前に進み出た。
「ひ、ひいぃっ!?」
「さて、私としては捕縛して、水皇と水姫のお膝元で裁かれるべきだと思っているのですが……この村をここまで混乱させて、住人が黙っているとは到底思えません。まぁ、一人生き残っていればいくらでも話は聞けるでしょうし、仮に逃げおおせたとしても、彼女から逃げきれるか――――」
目をスッと細めた広之。その冷たい視線に射抜かれて、阿上はどうあっても敵わないと察したらしく、一気に走り出した。
それを見た蜻蛉たちも一斉に走り出す。
「あまり気負わなくても、大丈夫ですよ。どちらも既に追ってくれている人がいますから」
そう告げると広之は目を閉じた。
「広之殿?」
「あぁ、少し他の式神に指示を出していましてね。いつもなら、こんなことをせずに思念を送ることができるのですが、少々、力を使い過ぎたみたいです」
額を抑えて、前屈みになる広之に僧正だけでなく、勇輝やこの場に残った大人たちが駆け付けた。
「とりあえず、真行を安全な場所まで運びます。広之殿は大丈夫ですか?」
「えぇ、私は自力で歩けるのでご心配なく。少し休めば回復しますので」
助力を断って広之は、大きく深呼吸をする。
常時式神を使役する負担は慣れているのだろうが、体調が悪い時に儀式の急な準備と今回の事件の対処と立て続けにやるべきことが重なれば、眩暈の一つや二つが起こってもおかしくない。
勇輝は広之の腕を持って支えると持っていたポーションを差し出した。
「あぁ、勇輝殿か。随分と情けない姿を見せてしまって申し訳ない。桜たちには内緒ですよ」
「いえ、陰陽師として立派なお姿だったかと」
「そうですか。そんなことを言われるのは久しぶりだから、何だか恥ずかしいですね」
空笑いしながら、広之は勇輝へと体重を預ける。想像以上にかかる重さに、かなり消耗していることを悟る勇輝。
ポーションを飲んだ広之は口元を手の甲で拭うと、大きく息を吐き出した。
「しかし、村人の全員分の変化を見破る札だけでなく、新たに身代わりの札を作成していたとはな」
「いえ、見破るためのお札の作成は途中からは私は行っていません。娘たちに手伝ってもらっていました」
「何と……!」
僧正が驚きの声を上げる一方で、勇輝はあっと桜といた時のことを思い出した。
「そういえば、俺がお札とかを体中に貼られていた時に、桜が何か作っていたような気がしましたけど、あれって、もしかして――――」
「えぇ、ご想像通りです。私の代わりに作ってくれていたのでしょう。お札作りも良い勉強になります。最初は少し出来が不安でしたが、すぐに二人とも実用に耐える物を作れるようになってくれました。正直、二人がいなければ、この短期間で用意するのは難しかったかと」
それでもギリギリだったようで、広之としてはかなり危ない綱渡りに冷や冷やしていたようだ。
「さて、後は各々の活躍に期待、と言ったところですかね。あとは真行君の回復を待ち次第、事情を聞けると良いのですが」
広之はそう告げると、阿上と尾兎無が逃げた方へと視線を巡らせた。
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