巳式の試練Ⅵ
「――――巳式」
「はっ」
声音の変わらぬ広之の声だったが、そこに何かを感じ取ったのか。巳式はその場に跪いた。
「君は私の言いつけを守りました。いつもよりも自分を抑えて立ち回れたのは、評価できることでしょう」
「と、当然のことをしたまで」
「隆三殿。ここまで見て、私の式神たちをどう思いましたか?」
微笑んだまま隆三の方へと顔を向ける広之。
それに対して、隆三は並んだ三人を見回して眉を潜める。戦闘能力は言わずもがなだ。
後に彼は、南条家に向かう馬車の中で呟いた。
魔弓を以てして、この三人を相手取れるかと言われれば、答えは肯定。しかし、勝てるかと言われると難しいと言わざるを得ない。十回やって二人仕留められるところまで行けるかどうか、だと。
しかも、それぞれが本気を出していないという状態で、という条件付きだ。全力同士だと考えるなら、少なくとも、一対一でやっと五分。
隆三は少しだけ間を開けた後、広之に答える。
「見事なものです。一人一人の戦闘能力の高さだけではない。娘さんの式神も自律行動をすることができていたが、それ以上に自我があり、行動し、そして忠誠を誓う姿には驚きを隠せない、と言ったところが正直な感想です」
先程、漏れかけていた素の自分を引っ込めさせ、貴族なりの体裁で話す。だが、その視線は未だ苦しんでいる勇輝へと注がれていた。
「しかし、それを見せつけるために彼に戦わせたというのならば、式神の質どうこうの前にあなたの資質が問われるべきでしょうな」
「ははは、それは耳が痛い。まったくもってその通りです――――しかし、だ」
扇子で頭を叩きながら広之は苦笑する。そんな彼の切れ長の目が僅かに開かれた。その奥に鋭い眼光を見た隆三は思わず息を呑む。
「あの娘の為にも……これは必要なことなのです。何しろ、時間があまり残されていませんから」
「一体、何を――――?」
時間がない、とはどういうことか。遠くから聞いていた勇輝はもちろん、隆三たちも全く話が分からず戸惑いを隠せない様子だった。
「お父さん! 勇輝さんに何をしてるの!?」
ドタドタと廊下を桜が慌てて走って来る。その後を荷物を運んでいた子式が後ろから後を追いかけていた。
ブーツへと足を雑に通し、すぐに勇輝の下へと駆け寄って行く。
「勇輝さん。もしかして、お父さんの式神と戦ったの?」
「あ、あぁ……」
当たり所が悪かったのか。勇輝の眼は焦点が合っておらず、桜へと顔を向けた拍子にそのまま横に倒れてしまった。
「――――ぴょんちゃん!」
「――――さーちゃんのお呼びとあらば、即参上!」
白い兎頭の式神が、まるで最初からそこにいたかのように表れる。
「久しぶり、と話したいことはあるけど、まずはこの子の治療が先ね。さーちゃん、ちょっと退いてくれるかしら?」
兎の耳をひょこひょこと動かしながら、勇輝の背中と脇腹に手を当てる。
心配そうに勇輝の顔を覗き込んで手を握る桜。その横では午式が突き立てた槍を持ち直して仁王立ちしていた。
「うん。ちょっと、打撲で青痣になるかもしれないけど、その程度。この服があいつの蹴りから守ってくれたみたいね。見た目以上にいい性能してるみたい。あなたも自分の防具に感謝するのよ。あいつの蹴り、その気になったら岩とか砕いちゃうんだから。でも、強い男の子ならこれくらいでへばらないの!」
「あ、ありがとう、ございま――――あ゛い゛っ!?」
最後に思いきり蹴られた所を叩かれて、勇輝は悶絶する。
「ちょっと、ぴょんちゃん。怪我人には優しく!」
「はいはい。いつから、さーちゃんはこんなに心配性になったんだろうねー」
目くじらを立てる桜と卯式のやりとりを横目で見ながら巳式は一人呟いた。
「そこまで強く蹴ってねぇっつーの。これだから貧弱な人間は……。主殿、用がないなら私は失礼する」
心底気に入らないというように勇輝を一瞥した後、音もなく姿が掻き消えた。
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