巳式の試練Ⅶ
広之は、ふと誰もいない屋敷の方へと振り返る。しばらく、そちらを見ていたが、振り返って隆三に問いかけた。
「さて、北御門殿。茶菓子の用意ができたので、お上がりください」
「いえ、結構です。あんなものを見せられた後では気が休まらない。悪いですが、馬車の方に戻って次の場所を目指そうと思います」
「そうですか。それは残念です。どうかお気をつけて。御当主に会われた際には、広之が会いたがっていたとお伝えください」
「覚えていたら伝えておきます」
不機嫌そうに踵を返す隆三。それを顔色一つ変えずに見送る広之。見る人が見れば、人の形をした妖だのと心ない言葉を思いつくくらいには冷酷な瞳であっただろう。
娘である桜さえ、戸惑いを隠せずにいた。それは、己の父がいきなり式神をけしかけるような人物だったかと疑問に思っているようであった。
ただ目の前で起きていたことは否定できない。恐らく、自分の知る父の姿と今の姿があまりにもかけ離れていて、彼女ですら現状を理解できていないのだろう。
「お父さんが……本当にやらせたの?」
それでも信じ切れずに、ただ黙って広之の動向を見守る。そんな彼の視線が勇輝と桜へと向けられ、思わず肩が跳ねた。
「すまない。どうも彼らを怒らせてしまったみたいです。それに桜も驚かせてしまったようだ」
「そ、それより、勇輝さんに何でこんなことを?」
広之は静かに桜たちの下まで歩いて来ると、午式と卯式を下がらせる。見下ろしてくる視線が明らかに冷ややかだ。
「彼には伝えたんだけどね。今の彼の実力がどれほどのものか見ておきたかったんだ」
「勇輝さんは今までに何度も私の命を救ってくれたし、凄い強い魔物を倒して来たのはお父さんだって知ってるでしょ!?」
桜が立ち上がって、珍しく声を張り上げた。それは広之にとっても珍しいことだったのか。詰め寄りかねない桜を目を丸くして背を仰け反らせる。二、三度瞬きをした後、両手で桜に落ち着くように諭した。
「まぁまぁ、桜の手紙を見たから、彼がそれなりの場数を踏んでいるのはわかるよ。でも、やはり直接見ないことには何ともね」
「それでこんなことをしたの? お父さんがそんなことする人だとは思わなかった」
「相談も説明もなしに、いきなりこんな手段に出たのは確かに理解しがたいでしょうね。こればかりは焦った私の落ち度だ。勇輝君、桜、申し訳なかった」
勇輝が何とか立ち上がったところで、唐突に広之は頭を下げた。
「大怪我していないから良かったんですが、何で俺の実力が知りたかったんです? 桜の護衛でここに来る前ならばわかるのですが……到着してから、そんなことをする意味がよくわからなくて……」
「うん? 私は君が姫立ちの儀の最有力候補だと思っていたのだけれど……違うのかい?」
お互いの頭の上に疑問符が幾つも浮かぶ。先程までの表情と違って、広之は唖然としているので、本当に何かしらの理由があってそうしていたのだろうと勇輝は察した。
「お、お父さん! 何でそういう話になるの! 留学するから私のその話は、今年はないって言ってたでしょう!?」
対して、桜は顔を真っ赤にして広之の服を掴んで前後に揺すり始める。ここまで桜が慌てるのも珍しい。そして、同時に桜には何か思い当たることがあるという考えられる。
「まず、桜に帰ってきてもらったのはファンメル王国と蓮華帝国の小競り合いがあったからです。それに加えて、あの国ではあまりよくない兆候が見られたから、少し心配になりまして」
すぐに勇輝と桜は、その兆候が何かを理解する。ファンメル王国には、聖教国サケルラクリマからは聖女が派遣されていた。そして、その目的は勇者を探すこと。それは言いかえると、勇者が倒すべき魔王なる存在の復活の兆しがあったということでもある。
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