巳式の試練Ⅳ
再び、鎌首をもたげた炎の蛇が勢いよく迫って来るのを確認して、勇輝は一気にその場から駆け出した。咢の真横スレスレを通り抜け、何かが焼けこげる臭いを嗅ぎながらも、足を前へと踏み出す。
「むっ……!?」
勇輝が向かったのは巳式本体。炎の蛇にいちいち付き合って消耗戦を強いられるよりも、短期決戦に賭けるべきだという考えに至った結果だ。
後ろから炎の蛇が追い付くよりも早く巳式の下へ辿り着く。身体強化に回す魔力が一気に膨れ上がり、肌がビリビリと痺れる感覚が走る。
鬼気迫る表情で吶喊して来る勇輝に、巳式は笑みを一層深くして鉄扇を振り抜いた。
「――――!」
「炎の蛇が一体しか出せないなんて、言ってないよな?」
そんな勇輝の正面に二匹目の炎の蛇が襲い掛かる。止まっている時と違い、走っている勇輝に方向転換は難しく、例え今から避けたとしても、左右どちらかの半身が飲み込まれるのは必須だ。
「どうするかお手並み拝見――――!?」
攻撃に差し向けた蛇の形が揺らめき、形を失った。それを見た巳式は反射的に、鉄扇を己の前へと持ってきていた。
――――ミシリ!
「くっ……!?」
鉄扇の中骨が軋みを上げる。咄嗟に鉄扇を閉じて、巳式は腕を振り上げた。炎の蛇を貫いて、不可視の弾丸がいつの間にか手元まで届いていたのだ。
神懸かった反射行動で、ガンドを上空へと逸らす行動に成功した巳式だったが、まだ表情は焦ったままであった。それもそのはずだ。
ガンドが吹き飛ばした炎の蛇は、まだ完全に消えてはいなかった。その残り火が不自然に揺らめく。
「飛び道具が一発しか出せないなんて、言ってないよなぁ!?」
「こいつ!?」
余裕のある煽りをしていた巳式と違い。勇輝は必死に割れた炎の蛇の間を走り抜けながら叫ぶ。全弾撃ち尽くした勇輝に後はない。いかに早く肉薄し、斬りつけられるかにかかっている。
そして、それは巳式も承知をしているのだろう。ガンドを弾けるとはいえ、連続で弾くにはいささか数が多い。加えて、体勢を崩していた咄嗟の一撃に比べ、一発一発の手応えが重い。
一発目の感触で危険と判断したらしく、瞬時に二発目からを鉄扇の親骨で逸らしていく。遅れて後ろの池に着弾したガンドが水柱を上げ、巳式はここで初めて、予想以上に喰らったら危険であることを悟ったようだ。
「やるじゃねえか。このガキが!」
痺れる手から鉄扇を落とし、握りこぶしを作って構える。勇輝が突っ込んでくるタイミングに合わせて、その顔面に高速の一撃が放たれた。
風体とは裏腹にコンパクトにたたまれた腕から放たれたストレート。それを勇輝は首だけ傾けて回避する。頬を擦り、皮膚が引っ張られるのを感じながらも、勇輝はそのまま構わず踏み込んだ。
右腕を完全に伸ばし切った死に体。これほどの好機を見逃すわけにはいかない。首こそ傾けているが八相の構えはまだ生きており、刀を振り下ろせば確実に巳式へと当たる。
勇輝はパンチを避けた反動をそのままに体を使って刀を振り下ろした――――筈だった。
「――――!?」
袈裟斬りで振り抜かれるはずの腕が動かない。刀の刃ではなく、別の場所に引っ掛かりを感じて勇輝は咄嗟に手を離した。その直後――――
――――ゴッ!!
自分の体が真横に吹き飛んだ。まるで自動車に撥ねられたかのように、玉砂利の上を転がって行く。
「危なかった。が、拳を避けるのに集中しすぎて振り遅れたな? ま、よくやったと褒めてやるよ」
勇輝の持っていた刀は空中に浮いていた。否、その柄の半ばを巳式が左手で握っていた。勇輝が右拳を避けたとほぼ同時に左手で刀を掴みかかっていたのだ。
流石にあの一瞬で、まさか両方の拳が飛び出してくるとまでは魔眼であっても読み切れていなかった。四つん這いで咳き込みながらも、勇輝は立ち上がろうとする。
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