巳式の試練Ⅱ
勇輝は刀をもう一度、正眼に構えようとして、すぐにそれを更に上へと持って行く。
「(足元を狙われることはない。それならば、防御を捨てて振りの早い上段で攻める!)」
防具のない刀同士の戦いならば足を斬られる可能性もあるが、巳式の得物は鉄扇。余程かがまない限り勇輝の下半身へ攻撃が繰り出されることはない。
躱されるのならば、それより早く振るうのみ。鉄扇に防がれるのならば、それごと斬り捨てる。先程まで抑えていた身体強化のための魔力を全身に巡らせる。
「地面に叩きつけられて、やっと目が覚めたってところか。さぁ、本番はこっからだ!」
自分の体を斬り捨ててみろと言わんばかりに巳式は、歩む速度を落とすことなく勇輝へと近づいて来る。玉砂利が鳴らす音が次第に大きくなる中で、巳式の声はそれを掻き消すような大声に変わっていた。
二歩、三歩と進み、勇輝の間合いへと迷うことなく踏み入れる。
「――――!」
それを見逃さず、勇輝は左拳を僅かにずらして、袈裟切りに斬りつける。空中を刃が白銀の弧を描くが、それを巳式は苦も無く掻い潜る。
お返しとばかりに勇輝の顔面に逆手に握った鉄扇が叩き込まれた。
「ぶっ!?」
「おら、毎回、仕切り直してもらえると思ったら大間違いだぞ!?」
がら空きの脇腹に、巳式の空いた左拳が叩き込まれる。くの字に折れ曲がる勇輝の後頭部に追い打ちをかけるようにして、鉄扇が勢いよく爆ぜた。
そのままの勢いで地面へと突っ込んでいく勇輝。そんな状態でも、意地で無理矢理刀を持った右手を巳式へと向ける。
金属音が響き、必死の反撃虚しく不発に終わったことを理解する。
「ふん、そんな振り回しただけの一撃、掠りも――――」
「――――吹き飛べ」
鉄扇で刀を弾かれた反動と共に、勇輝の右人差し指が巳式を捉えた。
――――ドッ!!
本来ならば病や痛みを引き起こす程度で終わるはずのガンド。だが、勇輝のそれは肉を抉り、骨を砕き、魔法を無効化するミスリルを含んだ城壁すら破壊する。
いかに強力な式神とはいえ、喰らえばひとたまりもないのは確実だ。
脇腹の鈍痛を堪えて、すぐに勇輝は左手をついて三度立ち上がる。呼吸が乱れ、内臓まで届いた痛みに足が震えだす。それでも勇輝は巳式への警戒を緩めずに向き直った。
「なっ!?」
「いや、驚いたな。今のはちょっと焦ったぞ」
鉄扇を横に振り切った状態の巳式が傷一つなく立っていた。鉄扇からは白煙が昇り、ガンドを叩き潰したことが推測できる。
「(くそ、やっぱり、必ずしもガンドが通るってわけじゃないのか)」
今までにガンドを放って失敗したことがあるが、その原因には三種類あった。一つは、単純に外してしまうこと。そして、もう一つは敵の防御力の方が上だったり、再生能力があったりして、効果が薄かったこと。何より厄介なのが三つ目。体の一部や武器の攻撃でガンドの魔力自体が吹き飛ばされてしまうこと。
それは即ち、不可視のガンドを見切って、叩き潰すという神業ができる戦闘力があるという証左でもある。まともに正面から戦えば、ただでは済まないのは明らかだ。それがいくら攻撃を受けて体勢が崩れ、魔力が練り込まれていなかった一撃だったとしても。
「(月の八咫烏……クロウと名乗ったあいつも、素手で弾き飛ばしてたんだ。武器を持ってる式神に出来ないなんて言う道理はない)」
心のどこかで、これなら倒れてくれると希望的観測をしていた勇輝だったが、随分と甘い考えを抱いていたのだと思い知った。
目の前に佇む巳式は、己の鉄扇を一瞥して目を細める。頑丈さではかなりのものであると自負する彼の武器だったが、その表面が僅かに歪んでいた。
その破損を見て巳式は嬉しそうに笑みを浮かべる。
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