雛森村Ⅵ
約一時間後、勇輝はげっそりとした顔で荷台に転がっていた。
その原因は言うまでもなく、東雲と南条の家臣代表として、ここに居を構えている米田家と赤桐家の当主だ。
「勇輝さん、お疲れ様。そんなに緊張しなくても、みんな優しくて良い人たちなのに……」
「桜にはアレが優しいに見えたのか……!?」
勇輝が頬を引き攣らせるのも無理はない。最初に出会った張継同様に、桜にはとても優しく話しかけるのだが、勇輝の存在に気付いた瞬間、殺気をものすごい勢いで飛ばしてくるのだ。
張継の時はすぐに理解できなかったが、二度、三度と同じことをされれば、嫌でもそれが殺気だと確信してしまう。
「勇輝、無駄だ。あのおっさんたち、お前にだけ器用に殺気をぶつけてたからな」
「……?」
桜が首を捻る横で勇輝は唖然とした顔をするしかない。
二件目に訪れた米田家の当主は、見た目からして強面であった。おでこを出したオールバック気味の髪型、への字のような太眉に鋭い眼光。少々恰幅は良かったが、目算にして五メートルほどの距離に踏み込んだ瞬間に、石像のように動かずに、目だけはギロリと睨みつけてきた。
もし張継に最初に出会っていなかったら、確実に土産を落として刀を抜いてしまっていたであろう。
「(もしかして、こうなることがわかっていて張継さんも……?)」
初めて村に来た人間は軽く脅しておくのが、この村のしきたりなのかと疑問に思いながらも、勇輝は潤平が言っていたことを思い出す。
「……ただの若造ではない、か。まぁいい。こんな時期にここに来るとは物好きな奴だ。せいぜい南条の若い奴らに囲まれぬよう気を付けることだ」
その一方で南条家の蜻蛉に出会った時は、同様に東雲に気を付けろと釘を刺される。
「面白いな。これなら、今度の祭りに間に合いそうだ。……逆に言えば、それだけ敵と見る奴も多いってことだ。夜道は後ろに気を付けな。東雲の奴らは奇襲も得意だから」
髪を雑に結い、無精髭を生やした蜻蛉は何がおかしいのか。常に笑いながら話をしていた。顔も目も笑っているのに、何故か油断した瞬間に殺されるという感覚が常に勇輝には感じ取れた。線は細く、枯れ枝のような印象を受けるが、服から覗く腕は引き締まった筋肉の塊であったことを勇輝は見逃さなかった。
「祭りって言ってたな。桜、何か知ってるか?」
「えっと……それは……」
先程までは普通にしていた桜が、急にそわそわし始める。目は泳ぎ、指が膝の上で踊り出した。
「その、家に着いてからの方が良いかな。ここだと言いにくいこともあるし……」
桜の視線は隆三や正司の方へと向いていた。
視線を追った勇輝は、その先にいる二人がニヤニヤとファンメル王国にいた悪戯好きな友人を思わせる笑みを浮かべていたので、嫌な予感しかしなかった。しかし、桜が話そうとしないのには理由があるのだろうと考え、それ以上問うのは一旦やめることにした。その代わりに隆三へと別の疑問をぶつける。
「そういえば、隆三さんは米田さんや赤桐さんの家とは知り合いじゃないんですか?」
「知り合いかどうかと言われると微妙なところだな。互いに名前と顔は知っているけど、親しく話すような間柄じゃない。そもそも、活動場所が違うからな。仕事上の仲間……みたいなものではあるかもしれないが、友人かと言われると違う。そもそも年齢も一回り以上、あっちが上だ」
既に二人とも子供がおり、勇輝と同じくらいの年だという。
「まぁ、隆三様が少しばかり老けて見えるのは仕方がないとはいえ、基本的にはここにいる子供たちと手合わせしに来た時に顔を合わせて二言、三言話したくらいでしょう? 正直、相手もどう話し掛けたらいいかわからないんじゃないんですかねぇ?」
正司がそう言うと、隆三は頷きながらも大きな手を広げて正司の頭を掴む。そのまま、握力に任せて締め付けながら、ゆっくりと顔を近付けた。
「わるかったな……老け顔で!」
「あいたたた!? 冗談、冗談ですって!」
荷台の床を叩いて、降参の意を示すと、その拘束は一瞬で解かれた。別に隆三が怒りを鎮めたわけではない。御者台から声がかかったからだ。
「お待たせしました。この旅の目的地、或いは中継地点に到着です」
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