雛森村Ⅳ
何とか勇輝が落ち着きを取り戻していると馬車が止まった。
後ろ側から顔を覗かせると、偉い人の家の前なのだろうと身構えてしまう。しかし、意外にもそこの外壁はただの木の板でできていた。中には村に入る前に勇輝が想像していたような木造の平屋が建っているのが微かに見える。
「勇輝さん。村長さんの所に着いたよ」
「わ、わかった。悪いけど、案内してもらっていい?」
「もちろん」
塀沿いに何本も並ぶ立派な松に見惚れながら勇輝は、土産を持って荷台から降りる。すると、すぐ後ろに隆三も着いて来た。
「一応、俺も関係者だからな。挨拶くらいはしておかないとまずい」
「北御門の人もこちらには来るんですか?」
「いや、少なくとも俺が来たのは一、二回くらいだ。年に一回こういう村のどこかを選んで出稽古するんだ。いい刺激になるってな」
そう言いながら隆三は顎で勇輝に先を行くように示す。急いで石段を上ると、既に開かれた門の前で桜が待っていて、縁側にいた老人がゆっくりと歩いてきているところだった。
老人とは言ったが、足腰がしっかりしている。また、目の皺で誤魔化されそうになるが、その奥に光る眼光は鋭い。甚平を羽織り、カラコロと下駄の音を響かせて来る。
流石に伺った先の主人をわざわざ出迎えさせるのは失礼と思い、勇輝は慌てて中に進んだ桜の横へと向かった。
「ふむ。誰かと思ったら言之葉さんのところの桜ちゃんじゃないか。大陸の呪術を学びに行ってたはずでは?」
「張継さん。お久しぶりです。先日、父から戻ってくるよう連絡が合って、戻ったところなんです」
「そうかそうか。そりゃ大変なこって……おや、お主らは……」
張継と呼ばれた老人が勇輝を見て、その後に隆三をじっと見る。
勇輝が振り返ると隆三が頬を引き攣らせていた。まるで真夜中に幽霊にでも出くわしたかのような驚きようだ。
「平塚の爺さん……、こんなところにいたのか」
「そういうお主は……北御門の三男坊だな?」
その一言を告げた瞬間、周りの温度が数度下がったように勇輝は感じた。思わず、勇輝は刀の鍔に左手の親指をかけて鯉口を切りそうになる。
「(何だこの爺さん!? 顔は笑ってるのに――――殺気か!?)」
肌を突き刺すような痛みがあるが、張継は何もしていない。魔眼を開いてみるが、発する光は穏やかそのもので、むしろこちらに危害を加えるようには見えなかった。しかし、確実に何かしらのプレッシャーをかけて来ているのは事実で、勇輝はその重さに耐えきれず息をまともに吸えなかった。
僅かに視界に入った桜を心配して、そちらに視線を向けるが、桜は何食わぬ顔をして勇輝たちを見ている。
「ふむふむ、だいぶ死線を潜り抜けて来たと見た。随分と成長したな。隆三や」
「お久しぶりです。無事帰れたのも爺さんのおかげだ」
「はっはっはっ、世辞を言うようになったとは、本当に成長したな。小さい頃のお主からは想像がつかんわ」
ふっと空気が和らぐのを感じて、勇輝は上半身がガチガチに緊張しきっていたことに気付いた。手も汗が噴き出てじっとりと湿っている。もし、放たれた殺気があと少しでも大きかったら右手に握っていた土産を落として、刀を抜くことを選んでいたかもしれない。
「そして、そちらは新顔だな。少しばかり気絶させてやろうかと思ったが良い胆力だ。その若さで堪えたのは褒めてやらねばならんな。お主、名は?」
「う、内守勇輝、です。」
「――――内守?」
やはり、巫女長と同じ苗字と言うのは目立つのだろう。即座に張継は反応して、北御門に視線を送った。元々、城に務めていた者が、このような村長の任を引き受けるというのだから、むしろ反応しない方がおかしいのかもしれない。
「巫女長の曾孫さんだそうだ。本人はその扱いを不服に思ってる部分もあるからな。あまり弄ってやらないでくれ」
「その、よろしくお願いします。どれくらいになるかはわかりませんが、滞在することになるので挨拶も兼ねて伺わせていただきました」
「ほう、これは丁寧にどうも」
勇輝は噛みそうになりながらも、事前に決めていた言葉を述べて土産を渡す。中身は、前の宿場町で購入した羊羹だ。
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