雛森村Ⅰ
宿場町を出た馬車は少し肌寒く感じる風を切り、街道を進んでいた。
行先は雛森村。日ノ本国の中心からやや南東にある村だ。村とは言うが、人口も多く、賑わいがあるという。周りは山と森に囲まれ、自然豊かな場所と言えば聞こえはいいが、その分だけ魔物も多く出るところなのが玉に瑕だ。
「それでね。村の大半の人が四方位貴族の東雲家か南条家に仕えている人たちなの。小さい子たちをそこで育てて、一人前になったら正式に仕えることが許されるんだって」
その村に実家がある言之葉桜は父に呼び出されて、留学先のファンメル王国から向かっている途中だった。道中で色々と苦難に晒されはしたが、やっとのことで今日の正午には村に着くことができる予定だ。
半年ぶりの帰郷と言うこともあってか。家族に何かあったのかもしれないという不安は抱きながらも、少しばかり気分が高揚しているのは誰が見ても明らかだった。
「へぇ、でも大丈夫なのかな? こう……違う貴族に仕える人たち同士でいざこざとか起こらないのか?」
隣に座っていた内守勇輝が疑問を呈する。
この世界にひょんなことから迷い込んでしまった身としては、こちらの常識に疎いところがある。それでも、住んでいるのは同じ人間だ。考えたり思ったりすることは一緒だろうと村の事情を推測する。
「それも含めての村ってことさ。俺たち四方位貴族とその家臣は、力をつけてこの国を守らなきゃいけない。切磋琢磨ってのを常日頃からやっていかないと困るってことだ。そこにいる正司と巴も、同じような境遇で育ったんだ。お前らは同じ村で、西園寺のとこと一緒だったんだよな?」
東の東雲、西の西園寺、南の南条、北の北御門。国の四方を守ることを義務付けられた四方位貴族。その一角である北御門の三男・隆三はダンジョンから発掘した魔弓の弦の調子を確認しながら話す。
「えぇ、あっちもこっちも同じ諜報系の家ですから、小さい頃の遊びと言えばもっぱらかくれんぼでしたね。俺は小さい頃からガタイが良かったから隠れるのに苦労しましたよ、ほんとに」
「いつも私に真っ先に見つけられて文句を言っていたな。今思うと懐かしいが、年を重ねるにつれて訓練も過酷になっていたのは……あまり思い出したくはないものだ」
隆三に呼ばれた部下二名。正司と巴は、その過酷な訓練とやらを思い出したのか。遠い目で虚空を見つめる。よく人は若い頃に戻りたいなどと言うことがあるが、この二人には当てはまらないようだ。
勇輝は異国の地で仲を深めた桜の護衛の為、隆三たちは手に入れた魔弓を南条家に渡しに行くついでに護衛も兼ねて乗っている。談笑しているが、今までに何度も襲撃や事件に巻き込まれている為、警戒のアンテナは常に張っている状態だ。
「……なにか追いかけて来てますね」
最初にそれを口にしたのは正司だった。馬車の幌の後方へと目を向けて、じっと茂みの向こうを透視するかのように見守る。
「野生動物の可能性もあるからな。少し様子を見ておけ。隆三様、少し前を離れます」
御者台の方で見張りをしていた巴が、ゆっくりと揺れる荷台を移動していく。それと入れ替わるように隆三が前に出た。
正司と巴が顔を出して木々の間や茂みへと視線を巡らせるが、鬱蒼と生い茂った植物とその影のせいでなかなか動く生物の正体を見抜くことができない。
そんな二人の横から勇輝が音もなく顔を出した。
「……見た目的に四足歩行獣っぽいですね。大きさ的には、この前見た狼よりも少し大きいくらいかと」
勇輝は即座にその生物の姿形を見抜いた。これは正司たちが劣っているのではなく、ただ単純に勇輝が持っている魔眼の能力のおかげだ。
勇輝の魔眼には、植物たちが纏う緑色の光の中を真っ赤な獣が付かず離れずと言った様子で馬車を追いかけてきているのが映っていた。
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