双龍Ⅵ
「(いや、考えすぎか)」
或いは、と考える。短期間でもローレンス領を占領して、その間にしたいことがあったのか、と。
しかし、与えられた情報は少ない。宿につくまでの時間で何か思いついたとしても憶測にすぎず、そんなことをしていれば、魔物に襲われる可能性がある。
湧き上がってくる知的好奇心とは似て非なるものを何とか抑えて、勇輝は前を向いた。
「マリーたち、大丈夫かな?」
「ウンディーネが話しかけてきてくれるくらいには余裕があるんだろうけど、この先はどうなるかわからないからな。桜は実家の用事が落ち着いたらどうする?」
「えっと、呼ばれた内容にもよるけど、できるだけ早くファンメル王国に戻ろうかなって思ってるの。家族と一緒に居たいけど、それに甘えてるとずっとここにいたくなっちゃうから」
留学してから約半年。それだけの時間を家族と離れて過ごせば、ホームシックになってもおかしくはない。時代によっては桜くらいの年だと大人と同じ扱いをされることもあるだろうが、十数年しか生きていない身では、寂しく思うなと言う方が無理だ。
「(俺も寂しいとは思うが、桜とはまた事情が違うからな。そもそも、元の世界に帰れるかどうかもわからないしな)」
曾祖母が帰る手段を知っているのならば、既に勇輝に伝えているだろう。それを言わなかったということは、彼女ですらその方法がわからないということに他ならない。それか、言えない何かがあるのだろう。そう考えると遠くてお金がかかるとはいえ、帰る家があるというのが勇輝には羨ましかった。
「その、勇輝さんはどうなの?」
「え、俺か? 何がだ?」
一体何のことを問われているか理解できずに、勇輝は桜へと視線を向ける。
「何って、私はファンメル王国に戻りたいって思ってるけど、勇輝さんはどうするのかなって。だって、巫女長様が勇輝さんのひいお婆様なんでしょ? そうしたら、私を送り届けた後は巫女長様と……」
そこまで聞いて勇輝はやっと理解ができた。
そもそも自分は記憶喪失だったという話をしていたことを。例え記憶喪失が完璧に治っていなかったとしても、家族がいるならば一緒に過ごすのが一番だ。桜が巫女長である曾祖母と一緒に過ごすことを選択肢の一つとして考えていたとしても不思議ではない。
「いや、俺は多分、冒険者として色々な所に行くことになると思うな。まだ調べておかないといけないこともあるし」
「調べなきゃいけないこと?」
「そう。その為に一番手っ取り早いのは、ファンメル王国だったりするかもしれないかな。短い時間とはいえ、あそこの暮らしにはだいぶ慣れたし、図書館の蔵書数もすごいからさ。少なくとも、調べ物をするのには困らない」
ファンメル王国の王女は転移魔法の使い手だ。元の世界に戻るためには、その魔法が必要になる可能性もある。運良く、王族とは面会したことが何度かあり、一般人よりは信用が得られているはずだ。
「そっか。じゃあ、もし、また海を渡るときは一緒に行けるといいな」
「いいな、じゃなくて一緒にしてくれ。一人だとあんな恐ろしい海の上で生活できないから」
船酔いだけじゃなく、海の底から魔物がいつ襲ってくるかもわからない。知り合いがいるといないのとでは、精神的安定には優位に差がでるだろう。
「ふふふ、勇輝さんって強いのに、時々、本当に怖がりさんになるんだね」
「悪かったな。明かりがない暗闇とか、何が出てくるかわからない墓場とか、苦手なものはたくさんあるぞ」
例えば、トイレに行くときに廊下の電気を全てつけないと移動できない。そんな話を少し言葉を替えて話せば、桜も頷きながら笑みを零す。
だが、不意に彼女の顔が曇った。
「本当に何があったんだろう。家を出る前には、みんな元気だったのに……」
「できるだけ早く出発して、何事もないことを確認しよう。きっと、ローレンス領のことを聞いて、お父さんが心配で呼び出したとか、そういったことだと思うぞ」
「それならいいんだけど……」
いくら勇輝が声をかけたところで、桜の不安が無くなることはない。それでも、勇輝は宿に着くまで。そして、着いた後も桜へと励ましの言葉をかけ続けた。いや、それしかできなかった。
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