雷天大壮Ⅷ
大龍は咄嗟に剣を左手に持ち替えて、勇輝へと突き付ける。
「お、お前、いま何をした!?」
「ただの抜刀術だ。鞘から刀を抜きながら、そのまま斬っただけ。驚くことじゃない」
「そ、それだけじゃない。あの雷をどうやって避けた!? 確かにお前の真上に十発以上落としたはずだぞ!?」
辛うじて動く右手を体の側面に押し付けて出血を防ごうとしているが、大きな血管が切れているのだろう。すぐに服へと血が滲んでいく。
「さあな。俺はそこらへんに関しては後ろに任せてあったから何も知らない。それより、いいのか? その出血量だと、治療をしなければ危険だと思うんだが?」
「くっ、これくらい何ともない。俺から離れろ!」
刀を構えたままジリジリとにじり寄る勇輝に、不格好なまま大龍が剣を振るう。
だが、魔眼も身体強化も元の通り使える勇輝にとっては、もはやそんな大振りな攻撃が当たるはずもない。体を左右に、或いは屈んで何度も飛んでくる刃を避ける。
肩で息をし始めた大龍に勇輝は淡々と告げた。
「もう剣もまともに振れないほど弱ってる。さっさと剣を捨てないと命に関わるぞ」
「な、なめるな!」
いくら出血しているとはいえ、あまりにも衰弱するのが早い。そこで初めて大龍は自分の脚に細い針が数本刺さっていることに気付いた。
「……まさか、あの黒い棒を避けた時か!?」
主に上半身を狙った攻撃。それに対して死角からの下半身の攻撃。意識も完全に向いていなかったために、この瞬間まで気付くことができなかった。
先程まで魔眼で捉えていた光が大龍の中へと納まって行く。
身体強化と共に治癒力を増進させようとしているのだろうが、それが見えている勇輝にとって、その行動は正に命とりだ。自ら遠距離攻撃はしないと宣言しているようなもので、再装填されたガンドで撃ち抜くには十分な隙だった。
「ぐっ……」
「青龍さん。治療はしますが、暴れられたら面倒です。流石に手足を拘束させてもらいますよ?」
勇輝は天に向かって問いかける。
『あぁ、構わん。主を助けてくれるのならば、こちらは何も邪魔はしない』
返事はすぐにあった。呆れ半分、怒り半分と言った感情が見え隠れしているが、それを気にしていられるほど勇輝も余裕はない。
刀を構えたまま大龍に慎重に近付こうとすると、その横を素早く通り抜けていく人影があった。
「勇輝、そのまま構えて警戒してろ。こいつが変な動きしたら、その時には躊躇するな」
正司は剣を持った左手を思いきり蹴飛ばして、そのまま地面に大龍を押し倒す。そのまま後ろに手と足を一瞬で縛り上げると、胸元からポーションを取り出して大龍の右腕に掛けた。
苦悶の声が上がる中、正司はさらに布で二の腕を縛って止血し、その上からさらにポーションを掛ける。
「あ、あり得ない。どいつもこいつも生きてるなんて……俺の道術が失敗するはずが……!」
「確かにあなたの道術とやらは高位の魔法なのでしょうね。だからこそ、私にも付け入る隙があったようです」
勇輝の背後から隆三と巴を伴って桜が現れた。
地面に組み伏せられたままの大龍は、顔だけをそちらに向けて血走った目で睨みつける。今にも視線だけで人を殺しそうなそれを遮るように、勇輝は刀を突きつけた。
「雷天大壮。確かに天から落ちる雷はあなたの道術を後押しする優れた術式なのでしょうが、卜占を基にしていることは、ばらさなかった方が良かったかもしれませんね。卜占ではそれぞれの卦に正反対となる卦が存在していますから」
「――――風地観。まさか!」
「そうです。卜占における雷の対は風、天の対は地。地の上に風が吹き荒ぶ様を現した卦です。私の魔法で勇輝さんたちの頭上に可能な限りの魔力を籠めた風の層を作りました。咄嗟に考え付いた方法なのでどうなるか心配でしたが、上手くいったようで何よりです」
冷たい目で見降ろされながら、大龍は歯噛みした。まさか自分の術式を即座に利用して防御へと転用してくるなどとは考えもしなかったのだろう。
雷の道術は、その性質上、魔力を介して電流の流れる場所を誘導することで、やっと命中させることができる。それを放つ前に誘導のための魔力を吹き飛ばして、進路を変えてしまうようなことをされれば、当たらないのは明白だ。
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