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風の娘と帝王の鳥籠(大根と王妃の過去番外編)  作者: 大雪
第四章 冷籠宮と鳥籠の里の住神達
23/23

青年達は鳥籠の里に、風の娘は冷籠宮に訪れる

 それは、演舞帝国内にありながら、今では知る神は殆ど居ない。今は亡き一族が残し、たった一神の娘が受け継ぎ、そして現在、その娘の意志を受け継いだ少女から現在の演舞帝国皇帝がその土地を引き継いだ。


 許可された者の前にのみ、その入り口は現れる。



 主たる全ての『鍵』は、皇帝の手の中にある。そして、皇帝の許可を受けた上層部やその側近達もまた、そこに入る事を許されていた。


 なぜなら、許可された者達は、その関係者達だからだ。


 彼らは、誰に言われずとも誓約し、その誓いが破られれば魂が消滅する事すら厭わなかった。いわば、代償を捧げたようなものだが、彼らからすればそれは微々たるものだった。

 ちなみに、関係者でない者達も居るが、共に地獄を生き抜き、手を取り合い支え合った彼らの絆は深く、また一歩間違えればそれが自分であったと思えば、とても他神ごととは思えなかった。


 だからこそ、関係者でない者達も誓約を交わしたのだ。



 そうして、そこは今も外からの侵入に怯える事なく、守られ続ける。



 その場所は、『鳥籠の里』と呼ばれていた。



 四方を高い山脈に囲まれた里。

 そこに集められた者達が協力して生活する中で、作り上げられた里。


 里の周囲には、常に猛吹雪が発生しており、許可なき者は何神たりとも近づけない。



 その里の入り口。

 常神には決して見えない結界を通り抜け、許可されし一神ーー左宰相が配下、黄雅(おうが)はその里へと足を踏み入れた。


 彼は、許可されし者。

 そしてこの里の関係者だった。


 彼と同じく、やはり関係者である数神の麗しい男女が後を続く。


 そうして一気に視界が開け、そこにあったのは、のどかな空気の漂う緑生い茂る里だった。吹雪どころか雪すらも見当たらない。



「あ、黄雅様だ」

「久しぶりだな」


 にっこりと黄雅が笑うと、小さな女の子が嬉しそうに笑い返す。しかし、すぐにその少女は黄雅の後ろに付き従ってきた一神の男性によって抱えられ、黄雅の視線から隠されてしまう。


「お父さん、苦しい」

「黄雅様、うちの娘をたぶらかさないで下さい」


 酷い言いがかりをつけられた。


 確かに、今外から訪れた者達の中では、黄雅が一番美しかった。麗しさも匂い立つ様な色香と艶やかさも、それこそ極上の性別を超越した美貌は何もかもが飛び抜けていた。

 しかし、その父親だってそれはそれは美しい顔立ちをしている。ダダ漏れな色香は異性同性問わず引きつけるだろう。


 そして幸運なことに、そんな父の腕に居る子は血が繋がっていながら、父に全く似ていなかった。



「相変わらず似てねぇな、ちっとも」

「あ、あんたにだけは言われたくないわっ」


 黄雅と仲の良いその父親は、娘と似てないと言われて激しいショックを受けた。確かに自分の遺伝子はどこに行った?!と叫びたいぐらいに娘は自分とは似ていなかった。しかし、それでも自分の実の娘なのだ。


 その時、サクリと土を踏む音が聞こえた。


「黄雅、君また酷い事を言ったの?」


 黄雅は既に気配で分かっていたが、まるで弾かれた様に振り返った。そこに居たのは、やはり予想通りの神物だった。


恒牙(こうが)!」

「黄雅、久しぶりだね」


 そう言って、ほんわかと微笑んだのは、黄雅にとってはこの世でただ一神の血の繋がった身内であり、双子の兄だった。


「大事な仲間を虐めては駄目だよ」

「本当に、外見どころか中身も似てな」

「それ以上言ったら潰す」


 何を?とは聞かないで欲しい。あと、いつもなら殺すだが、相手の腕には小さな娘が居る。その娘の心情を思いやり、潰すで済ませた自分をむしろ褒めて欲しい。


「俺達は二卵性なんだよっ」

「むしろ赤の他神レベルで似てませんが」

「五月蠅い!」


 そう、実はこの黄雅と恒牙は全く似ていなかった。

 弟の黄雅はそれこそ傾国級の超絶妖艶系美女と称するに相応しい容姿だが、兄の恒牙は平々凡々かつ、どこにでも居る様な、むしろ雑踏に紛れた絶対に見つけられないぐらいの地味な容姿をしていた。そうーー地味は地味でも周囲に埋没するタイプの地味な容姿だった。


 因みに、黄雅と恒牙の両親は共に美しく、黄雅は両親の良い所だけひいたと言われていた。両方の祖父母も同様に美しかった。

 ただ、父方の曾祖母がかなり地味タイプの平々凡々な容姿をしていたというから、たぶんそこからの遺伝だと思われる。


 とはいえ、多くの権力者の欲望を激しく刺激する光り輝くような黄雅の美貌とは正反対の地味な恒牙の容姿は、言い方を変えれば誰にも影響を与えない周りに優しいものだと言える。

 一目見ただけで相手に未知を踏み誤らせ、神生を棒に振らせて台無しにさせた挙げ句、周囲にまで迷惑をかけさせるという影響力を持つ弟の容姿の方がむしろ周囲に厳しかった。


 話はずれたが、黄雅と恒牙は双子の兄弟である。たとえ、どんなに似ていないと言われても兄弟だった。


 そして、見た目はどうであれ中身が粗野で荒々しい黄雅とは正反対に、恒牙は優しく穏やかで大のお神好しだった。

 そんな兄を、黄雅は大切に大切にしていた。

 そうーー黄雅はブラコンだった。



「今回は君が当番なのかい?」

「あ、ああ。まあな」

「疲れただろう? もう少しで夕食だから、食べていくといいよ。今回は泊まれるの?」

「勿論だっ」


 黄雅は力強く言った。


「なら、たっぷりともてなしをさせて貰うよ。ああ、まだ仕事が残っているから」


 そう言って立ち去ろうとする恒牙に、黄雅は慌てて止めた。


「俺も手伝う」

「いや、お客様には」

「客じゃないっ」


 黄雅は思わず叫んだ。


「俺は恒雅の弟だろう?!」


 客じゃなくて身内だ。

 確かにここには住んではいないが、関係者だ。客だなんて、そんな風に言わないで欲しい。


 しかし、恒牙はどこか困った様に微笑んだ。


「……そうだね。そう言ってくれると凄く嬉しいよ」

「なら、良いじゃないかっ」

「そう思わない者達も居るんだよ」


 兄の言葉に、黄雅はグッと言葉に詰まった。


「恒雅は……俺が、いや、ここの奴らは俺達が来るのが迷惑だって思っているのか?」

「ううん」

「ならどうしてっ」

「迷惑じゃないよ。でも、君達はもう演舞帝国の上層部として、立派に国を治めている。本当に誇らしいよ。凄く大変でキツイ仕事をしている。この十五年、休むことなく必死になって国を建て直すのに頑張ったよね」


 兄が笑う。

 黄雅の大好きな笑みだった。


「寝る間も食事をする間も惜しんで。本当ならこの里に来る隙すらないのに、それでも来てくれた。自分達の休む時間さえ削って」

「ここに来るのが休みみたいなものだ」

「ありがとう。でも、あんまり来ない方が良いと思う」

「恒牙?」

「たった十五年でこの国を建て直した君達は本当に凄い。たとえ誰が何を言おうと、立派な政治家だ。輝かしい道が待っている、先行き明るい存在だ。きっと、沢山の神達が君達と縁づきたいと思っている」

「……何が、言いたい?」

「まあ……僕達みたいな過去の遺物に、何の取り柄もメリットもない者達にいつまでも関わっていなくて良いって事だよ。もっとこう、黄雅達にとって益となる、黄雅達を助け支えてくれて、なおかつ黄雅達の傍にいて相応しい相手を」


 ドンッと、黄雅が地面を踏みつける。その瞬間、地面に大穴が開いた。


「黄雅」

「俺達の側に誰が居て良いかは俺達が決める! それは例え恒牙達だろうと指図はされない!」

「黄雅」

「五月蠅い! 何がメリットだ、取り柄だ! 偉くなったから、過去は捨てろ?! 偉くなったから、今まで持っていた古い物や使えない物は捨てろ?! 俺達がそんな奴らだと思ってんのか?!」

「どうしてそこまで怒るんだい? これが初めてじゃないだろう?」


 そうーーいつも、恒牙は言った。

 いや、恒牙だけではない。


 此処に居る里の者達全員が、願うのだ。



 ーー自分達古き忌むべき過去の象徴を捨て、新しく輝かしい今を生きるべきだ……とーー



 そう、彼らは恒牙達が自分達を捨てて、新しい、今の身分に相応しい者達が代わりに側に侍る事を願っている。


 そんな事、黄雅達はこれっぽっちも考えて居ないと言うのに。



「あ、黄雅様っ」



 娘を抱いた青年の前で、黄雅が走り出す。その背を追いかけ、青年も娘を抱いたまま走り去っていった。



 一神残された恒牙は弟の去った方向を見ながら溜息をついた。



「君達は本当に頑張ってる。頑張って、頑張って、頑張って……昔とは大違いだ」


 いや、昔よりもより輝かしく美しく綺麗になっている。


 そんな彼らに、自分達の様な欠陥品が傍にいては駄目なのだ。彼らに相応しい、彼らを助け支え、そして守ってくれる様な強く美しい者達が必要なのだ。



「愛してるんだ」



 愛してる、愛してる、愛してるーー



 だからこそ、彼らが輝かしい道を歩み続けてくれる事を願ってやまないし、そんな彼らが昔のような地獄を再び経験しない様に守ってくれる強い存在が必要だった。



 自分達はそれにはなり得ない。



 むしろ、自分達は忌むべき過去の遺産なのだ。

 自分達を忘れ、新し神生を生きて欲しい。



 そう願うのは、罪なのだろうか?



 彼らを愛しているからこそ、里の者達は願うのだ。



 愛しい者達の、新たな輝かしい幸せな未来を。




「『あの方』が生きていたら……どう言われただろうか?」




 恒牙はぽつりと呟くと、ゆっくりと家路に向かって歩き出したのだった。



 そこは鳥籠の里。

 籠に入れられた者達はそこで生き、そして死んでいくのだ。それを、彼らは受け入れ望んでいた。


 ただ、実際はそれだけではない。

 彼らは、今も待ち続けているのだ。



 絶望し、自分達を憎み、憎悪し、果てしない殺意を抱き我が身の消滅を願っていた。

 そんな自分達に、『あの方』は。



 じゃあ、賭けてみましょう!!私はーー



 喜んでくれた。

 嬉しいと言ってくれた。



 でも、どうしても自分達は



「俺達は自分が許せないんですよ」



 大事な者達が、地獄を味あわされる原因となった自分達を。

 そして、何も出来ず、助け出す事も出来なかった無力な自分達を。




 冷宮(れいぐう)――


 それはかつて人間界のとある帝国にあった「寵愛を失った妃を捨てる宮殿」を指す言葉。

 だが、それがあるのはなにも人間界"だけ"ではなかった。


 いや、最初はどちらから始まったかは分からない。

 ただ、神々の世界にもそれは確かに存在し、数多ある国々には「寵愛を失った妃を押し込む宮」が存在していた。

  たいていは、後宮の端か王宮又は皇宮の端に位置し、ひっそりと佇む宮は、寵愛を失った妃達の捨て場所として存在する冷宮と呼ばれし忌み地。

 その場所に送られるのは死を越える恥辱とされ、狂死する者や自害する妃も居たとされるほどだった。


 演舞帝国皇宮内に建国当初から存在するその冷宮は、この帝国では『冷籠宮(れいろうきゅう)』と呼ばれていた。今まで、数多の妃達がその宮に送られたそこは、当然ながら忌むべき場所とされ、そこで狂い死んだ妃達の怨念が染みついている心霊スポットとすら呼ばれていた。


 その宮に、最後に押し込められた『妃』は前々皇妃。そして、『最後の宮の主』となったのは、その娘だった。


 忘れ去られた様な場所にある宮は、ボロボロの極み。

 世話する者達も居ないから、生活は基本的に自分達で行わなければならない。

 元々、最低限の世話役達は居たが、『最後の妃』がこの世を去ってからは、それすらも無くなった。衣食住さえままならぬ生活は過酷を極めた。


 皇帝の寵愛無き存在の生存は認められていないーーそう言わんばかりの対応だった。


 幸いだったのは、皇宮の端っこに存在するその宮は、本当に、本当に外れにあり、どちらかと言うと皇宮の敷地内を取り囲む最も外側の外壁に近かった事だろう。


 しかし今から十五年前、『最後の宮の主』が去った後、その『冷籠宮』はその本質を変えた。ボロボロの宮は建て直される事こそ無いが、そこに住まう者達の生活は大いに改善された。


 本来なら、そこに住まう者達はそれぞれの相手によって引き取られ、大切に大切に守られる筈だった。しかし、彼女達は決してそこから離れようとしない。


 今もひたすら、彼女達は十五年前に去った『ただ一神の主』、『最後の宮の主』の帰りを待ち続けるのだ。

 彼女達は、『あの方』によって救われた。


 『あの方』が居なければ死んでいた。


 だから、いつまでも、いつまでも待ち続ける。



 そうーー『鳥籠の里』と同じように。

 この『籠の宮』の中で生き、そして外に出ることなく待ち続けるのだ。




「美桜、いい加減離しなよ」

「そうだよ、離さないと困っちゃうよ」

「やぁぁぁぁぁっ」


 伊吹と芙吹の妹ーー美桜は、ぐっしょりとずぶ濡れ状態のまま、ある神物にしがみついたまま離れなかった。


「えっと」


 同じくぐっしょりと全身ずぶ濡れの楓は、自分にしがみつく美桜という幼女を見下ろした。


「き、着替えようか」



 池の底で意識を取り戻した楓は、本来なら自分が滞在している場所に戻される筈だったが、美桜がしがみついて離れなくなりそれも叶わなくなった。

 彼女の兄弟達が必死に引き離そうとしても駄目で、それこそ離れたら死ぬというぐらいにギャンギャンと泣きわめく。


 ならばと、美桜をいったん連れて部屋に戻るかと思えば、それは演舞帝国側は拒否した。すなわち、美桜の兄達と、兄達のお目付役という青年、そして菖蒲達だ。


「仕方ありません、『冷籠宮』に向かいましょう」

「『冷籠宮』?」


 きょとんと首を傾げたのは、果竪だった。

 彼女もまた、全身ずぶ濡れだった。


「将軍閣下、貴方様達もどうぞ」

「良いのですか? そちらは許可無き者達は入れないと伺っていますが」

「ーー構いません。それに、そちらの将軍夫神は楓様、そして美桜をお救いしようと奮闘して下さいました。また貴方様のお力で楓様はご無事でした。その行動が何よりの証です」

「ああ、そうですか」

「それにしても、本当にお見事でした。将軍夫神。貴方様は武術の心得が」

「ありませんよ、果竪には」


 え?と菖蒲以下演舞帝国側が果竪を見つめる。


「しかし、見事な短刀裁きで」

「あれは、私があらかじめ術をかけていた代物ですからね。風の力を宿し、対象物に飛んでいくように」

「……」

「それに、敵を倒すと言うよりは、私を呼ぶ為に放ったものでしょう。あれの力が解放された時には私に知らせが行くようにしていましたから」


 菖蒲は果竪を見る。


 果竪はにっこりと笑った。


「……しかし、その判断は素晴らしいものです」

「ええ。果竪は聡明な子ですから。ああ、流石は私の妻です」


 妻という言葉に、果竪は複雑そうな顔をした。


「妻?」

「妻?」

「妻?」


 とりあえず、美桜の兄達とそのお目付役の青年が顔を見合わせた。


 そして


「「「ロリコン?」」」


 萩波の米神がビシリと音を立てた。

 楓が悲鳴を上げる。


「萩波、楓お姉ちゃんが怯えてる。あと、美桜ちゃんがもっと泣いちゃう」


 果竪が萩波を宥め、楓にしがみついている美桜の頭をなでた。


「怖くないよ~」

「……」


 美桜は、楓にしがみつく手を片方だけ離した。


 ガシっ


「え?」


 果竪の服を美桜の小さな手が掴む。



「うぇぇぇぇんっ」



 泣きわめく楓に、果竪も捕獲された。



「……これはもう問答無用で、いえ、有無を言わさず『冷籠宮』にお越し戴かないと」

「気に入られましたね、果竪」

「美桜、離しなよっ」

「迷惑かけたら駄目だろっ」

「うぇぇぇぇぇんっ」


「あ~、すまないけど、俺からもお願いしやす」


 お目付役の青年が苦笑しながら頭を下げた。



「まあ、もうここまで来てるし今更だけど」


 果竪はそう言って、すぐ側に見える『冷籠宮』を見上げたのだった。

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