↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
26/28

三百十二名増えました

翌朝、荷馬車の中身は全部入れ替わっていた。


 売るはずだった麦も豆もない。


 帰りに積むはずだった塩や布もない。


 代わりに乗っているのは、毛布を抱えた人たちだった。


 出発前から、ハロルドはもう帳簿を開いている。


「今回の直販事業について報告します。売上はゼロ、違約金が発生。加えて避難民三百十二名分の食費、住居、医療費が必要になります。事業としては失敗です」


「……そこまで言わなくても分かるよ」


「ただし、今回の判断を修正する必要はないと考えます」


「昨日までなら、赤字って聞いた瞬間に改善案を十個くらい出してたのに」


「現在も十二案あります」


「……あるの」


「はい。ただし、救援を行わない案は含まれておりません」


 何でもない顔で言うものだから、怒るにも笑うにも困る。


「院長先生。計算対象が三百十二名増えましたので」


「……ちゃんと食べさせるところまで計算しな」


「承知しました」


     ◆


 領地へ戻ったのは、翌日の午後だった。


 館の前にはアデリアがいて、その後ろには寝具と毛布の山ができている。人を見る前に必要な物を揃えてあるあたり、ちゃんとハロルドの仲間だった。


「レーヤ様」


「ただいま」


「分かってはいましたが、本当に三百十二名いらっしゃるのですね。数字で読むのと、実際に見るのでは違います」


「そりゃそうだよ」


「負傷者は診療所へ、それ以外の方は空き倉庫と集会所へ案内します。ハロルド、寝床が足りない分は一緒に考えてください」


「……はい」


 ハロルドの返事は、いつもの「承知しました」ではなかった。


 その話を聞いていた避難民の中から、一人の男が前へ出た。


「領主様。俺たちも働かせてください。食わせてもらうだけじゃいられません」


「何ができるんだい」


「船頭です。俺だけじゃない。あそこにいる連中も、ほとんど港で働いてました」


 その言葉をきっかけに、周りから次々と声が上がった。


「俺は船大工です」


「荷揚げなら任せてくれ」


「倉庫管理をしていました」


「川沿いの市場なら、どこへ何を運べば売れるか分かります」


 船頭。


 船大工。


 荷揚げ。


 倉庫。


 市場。


 昨日まで、あたしたちに足りなかったものばかりだった。


 ハロルドから返事がないと思ったら、もう地図を広げている。領地と河港、その間の川へ指を走らせていた。


「院長先生。輸送計画を修正します。この人たちと船を使えば、水運を利用できる可能性があります」


 後ろを指す。


「三百十二人いるんだよ」


「はい」


「輸送計画はあと。この人たちの寝床が先」


「承知しました」


 ハロルドが地図を畳んだところへ、使用人が書状を持ってきた。


「ハロルド様。北部から連絡です」


 北部と聞いて、クロードとクロエの顔が浮かんだ。


 ハロルドが封を切る。


 いつもなら報告書なんて一度読めば、そのまま次の処理へ進む。


 その目が、途中で止まった。


「……何かあったの」


「ダンジョン調査隊が戻りました」


「じゃあ、クロードとクロエも?」


「いいえ」


 ハロルドは書状を下ろした。


「二人は戻っていません。クロードとクロエは、現在、行方不明です」


 さっきまで軽かったはずの毛布が、腕の中で急に重くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。