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四十七の刃 定例幹部会

 レーヤが休んだあと、ダルガ、ルシア、ノア、リアムは本部の会議室へ集められた。


 長机には各支部から届いた報告書が積まれ、その中央でエルザが新しい帳簿を開く。


「では、幹部会を始めます」


「姉ちゃん、顔」


 ルシアが言った。


「何です」


「さっきから緩んだり戻ったりしてる」


「久しぶりにお母様とお会いしたのです。少しくらいは」


「ほら、また緩んだ」


「あなたも泣いたと聞きましたが」


「誰だよ言ったの」


 ルシアが三人を見る。


 ダルガは腕を組んだ。


「幹部会である。真面目にせぬか」


「兄貴が言う? かあちゃん目の前にいたのに気づかなかったくせに」


「……」


「ぼくは分かったよ」


「俺もだ」


 ノアとリアムまで加わり、ダルガの眉間の皺が深くなった。


「そこまで」


 エルザが帳簿を叩いた。


「お母様がお戻りになりました。まず、今後の方針を確認します」


 四人を見る。


「目的は一つです。お母様に、今度こそ幸せに生きていただく。異論は?」


「無論にござる」


「あるわけねぇじゃん」


「うん」


「ない」


「では、お母様から受けた指示を整理します。ダルガ」


「報復に剣を使うな。王城への破壊工作も禁止された」


「でしたら、報復へ回していた人員は護衛、救出、防衛へ転用します」


 ダルガが頷く。


「我らの剣を、主君を守るために残せということか」


「そうなります」


「承知した」


 エルザは一行書き込んだ。


『武力 報復停止。護衛・救出・防衛へ転換』


「次、ルシア」


「かあちゃんは、必要な分だけ使えってさ」


「必要になってから用意するのですか?」


「急ぎなら間に合わねぇこともある」


「では各支部の利益から一定割合を本部へ。宿泊、食事、情報、人手、救護に限定して使用します」


 ルシアが少し考えた。


「それなら、かあちゃんが金のこと考えなくて済むな」


「そのためです」


「割合はアタシが出す」


『資金 各支部より定率拠出。お母様の活動費・救護費として管理』


「ノア」


「院長先生は、自分を拝む暇があるなら、困ってる人を助けろって」


「像と御神体は撤去しますか」


「うん。嫌がってたから」


「礼拝所まで閉じる必要はありませんね。配給所と施療所へ転用しましょう」


 ノアが笑う。


「形じゃなくて、院長先生がしてほしいことを残すんだね」


「そうです」


『信仰 礼拝縮小。施設・人員を救護、食料配給へ転用』


 そこでリアムが帳簿を見た。


「……繋がりは残すのか」


「施設間の連絡網ですか? 当然です。物資の融通に必要です」


「そうか」


 リアムはそれ以上言わなかった。


「最後、リアム」


「師匠からは、人を殺すな。証拠を集めろ。逃げ道を塞げ、と」


「暗殺は停止」


「停止する」


「では、暗殺要員は監視と証拠収集へ。逃走経路の把握までお願いします」


「そこまではいい」


 エルザのペンが止まった。


「そこまでは?」


「処遇は師匠の判断を仰ぐと、俺が勝手に決めた。仕組みにしろとは言われていない」


「では、集めた証拠は誰に渡します?」


「官憲」


「官憲が当事者なら?」


 リアムが黙る。


「王侯貴族も対象に含まれます。お母様へ報告し、その後を決めていただくのが最も安全です」


「待て」


「何でしょう」


「刃を捨てろと言われたんだ。柄を師匠に握らせろとは言われていない」


 エルザは少し考えたあと、帳簿へ書き加えた。


『処遇判断 お母様』


「判断のみお願いすれば問題ありません」


「……」


「これなら、人殺しはしません」


 リアムは答えなかった。


 エルザは四項目を見直す。


 護衛と救出。


 共通資金。


 救護と配給。


 監視と証拠収集。


「では、解散に向けて役割を整理します」


「待て」


 今度はリアムが先に言った。


「何です?」


「今、何と言った」


「解散に向けて役割を整理すると」


「そうか」


 リアムは帳簿を見る。


「続けろ」


「護衛と救出はダルガ。資金管理はルシア。救護と配給はノア。調査はリアム。全体管理は引き続き私が行います」


「承知した」


「了解」


「うん」


 三人が即答した。


 リアムだけが黙っている。


「リアム?」


「……これは、夜の女王の御意ではない」


「何がです」


「刃を鞘へ戻して、全部まとめて師匠の腰へ差し直している」


 エルザは帳簿へ目を落とした。


「なるほど。部門同士の連携も必要ですね」


「違う」


「重要案件は私が集約し、お母様へ報告します。ダルガ、ルシア、ノアも必要な情報はリアムと共有してください」


「承知した」


「分かった」


「うん」


「……エルザ姉さん」


「何です?」


「なぜ刃の向きが見えない」


「向き?」


 エルザは少し考えた。


「では、指揮系統も明文化しておきましょう」


 リアムが目を閉じた。


「……俺が指している闇は、そこじゃない」


「他に問題がありますか?」


 リアムはしばらく黙ったあと、低く言った。


「師匠は、自分のために人生を捨てるなと言った」


「はい」


「なら、これは何だ」


 エルザが帳簿を見た。


「捨ててはいません」


「……」


「使っています」


「何に」


 エルザは少しも迷わなかった。


「お母様を幸せにするために」


 リアムが黙った。


「問題がありますか?」


「……ない」


「では続けます」


 エルザが次の頁を開いた。


「お母様を処刑した者たちについて」


「全員監視中だ」


「手は出さないでください」


「分かっている」


「証拠だけ集めてください。判断はお母様へ」


「……分かった」


 エルザは頷く。


「最後に護衛体制です」


「拙者が受け持とう」


 ダルガが即答した。


「一人では足りません。交代要員を」


「我が隊から四班選抜する」


「夜間二班。移動時は先行と後衛も配置してください」


「承知した」


 エルザが書き込む。


 ルシアもノアも普通に頷いている。


 リアムだけが、新しい帳簿を見ていた。


「……四十七の刃は死んだ」


「縁起でもねぇこと言うなよ」


 ルシアが眉を寄せる。


「違う」


 リアムは帳簿から目を上げなかった。


「四十七本とも、師匠のところへ戻っただけだ」


 エルザが頷いた。


「では、その表現で統一しますか?」


「……やめてくれ」


「承知しました」


 エルザは帳簿の表紙へ題名を書いた。


『新運用体制』


 リアムが額を押さえた。


「……何も承知していない」

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