06.上には上がいますわ
一体どうやって逃げたのか、と思ったけれど、どうやら周りの水を一杯に吸い込んで、それを勢いよく吐き出したらしい。
それはそれで驚くべき技だけど、マジョリーカは別のことに驚いていた。
なんと、なんと!
「まさか、ここ、水の中だったんですのぉ~~~っ!」
なんとなく全部がふわふわ浮いているっぽいと思っていたけれど、あまりに自然過ぎて全く気付いていなかった。
でもそりゃそうよね、イカだし。イカなら水の中でも呼吸できてもおかしくないし。
私ってさっきからずっと、水の中を泳いでいたわけよね……。考えてみたら、人生始まって以来、初めての水泳だ。
いや、イカに生まれ変わってるけど!
マジョリーカ自身は大口の化け物から逃げ切れたけれど、マジョリーカが狙っていたチビイカはそうはいかなかった様子。気づいた時には周りにはいなかった。おそらくだけどマジョリーカの代わりに犠牲になったのだろう。
改めて周囲を探ってみる。今まですぐ近くしか見ていなかったけど、もっと広く遠くまで視線を移す。
「……なんてことですの。化け物みたいな巨大魚があんなにたくさん!」
マジョリーカなど一飲みにできるような巨大魚が大量に群れていた。
確かにここにはイカの卵があって、生まれてくるイカを食べ放題だ。でもそんな大チャンスはマジョリーカだけの特権じゃなかった。他にもそれを狙った者たちがここに集まって来ていたのだ。
巨大魚たちは水の中では思った以上に身軽だ。チビイカを狙いながら、まるで舞うように泳ぎ回っている。
「綺麗……」
非常に危険なのは分かっている。だけど、泳ぎ回る巨大魚たちのうろこが、方向転換するたびにきらきらと虹色に光って、とても幻想的な雰囲気を醸し出している。
その様子はまるで、舞踏会で踊る紳士・淑女のよう。
ついつい釣られて、自分もそこで一緒に踊りたい、そんな気分にさせられてしまう。
しかしそんな夢のような光景は長くは続かなかった。
バクッ!
そんな巨大魚を一飲みにするような超巨大魚が現れて、一匹の巨大魚を軽く仕留めたのだ。
巨大魚が小さな家ほどの大きさだとすると、超巨大魚は大きなお城ほどの大きさ。まさかあんな大きな生き物がいるとは、マジョリーカは驚きのあまり腰が抜けそうになる。
もちろんイカの体には腰なんて無かったので助かった。
見上げてみると、遥か上の方にはそんな超巨大魚の姿がたくさん見えていた。
そしてはるか遠くには、そんな超巨大魚を一飲みにするような、そんな超々巨大魚の姿さえも。
しかしその、はるか遠くの超々巨大魚でさえ、さらに強い者に食べられてしまうのだろう。
弱肉強食、それが自然界の掟なのだから。




