04.レベルアップしましたわ
がぶがぶっ!
チビイカの内の一匹に大きく噛みついた。
――レベルが2に上がったダワ。
その瞬間、心の中に何か聞こえてくる。え? 誰ですの? 何ですって? レベル?
そう言えば転生するときに、同じような女の人の声で誰かにいろいろ説明してもらったような気が……よく思い出せませんわね。レベルアップのチート、とか言っていた気が……まあ、忘れても特に問題ありませんわ!
レベルが上がると同時に、怪我していたところが全て治り、噛み千切られた耳や腕がもう一度生えてくる。
そして……猛烈にお腹が空いてきた。
目の前には今倒したばかりのチビイカの体が美味しそうにふわふわ浮いている。
「これを丸カジリで食べろってことですの? それでは貴族令嬢としての矜持が、マナーが……ええいっ、もうそれしかありませんわねっ!」
怪我を修復するためにエネルギーを使いきった体が、さらなるエネルギーを求めているのだ。食べなければ自分が死んでしまう。
ぱくぱくぱく。
「お、美味しいですわ~~~っ! なんですの、この超高級イカの味は~~~っ!」
柔らかいだけでなく、まるで口の中でとろけるよう。しっとりとした豊かな甘みが、ひとかみするごとに口の中から全身へと広がっていく。
侯爵令嬢時代に暮らしていた王国、そこは漁業が盛んで焼き魚や煮魚、フライにムニエルと魚介料理が豊富で美味しいところだ。そして中でも最強だったのが何といっても新鮮なお刺身。
そんなマジョリーカですら食べたことがないほどの、天にも昇るほどの素晴らしい味わい!
なんといってもそれは、まだ生まれたばかりの赤ちゃんイカ、しかも自分と同じサイズの巨大イカ。どんな王侯貴族でも絶対に食べたことがないと断言できる超高級食材だったのだ。
しっかり美味しくいただいたことで、さらに力が出るようになった。もう負けない。
なぜだか恐怖の表情を浮かべながら襲い掛かってくるチビイカたち。そんなチビイカを捕まえては食べ、捕まえては食べ、そうしているうちにまた心の中に声が聞こえてきた。
――レベルが3に上がったダワ。
そしてさらに力が出るようになったのを感じる。この声の主が誰なのかは分からないけれど、レベルというのは強さのことに違いない。
説明書も無いので、どういうものかは自分で考えるしかない。
――はぁ…………。
なんだかため息が聞こえたような……気のせいですわよね?
おそらくだけど、他の誰かに殺されたり食べられたりしないためには、別の誰かを殺して食べてレベルを上げないといけないのだ。
最初は殺して食べることに若干の抵抗はあったけれど、イカの本能がそれを求めてくるし、殺さなきゃ殺されちゃうし、食べなきゃ死んじゃうし、イカ大好きだし、美味しいし。それに一度乗り越えたことで、心理的な抵抗はほとんどなくなっていた。
「こうなったらもう、今後は一切、遠慮なんてしませんわ!」
マジョリーカはもう止まらない。近づいてきたチビイカたちをどんどん捕まえては倒していく。
これはきっと、大きなチャンスなのだわ。
こうして生まれて出てきたばかりのころが、一番警戒心が低くて、経験もなく、弱くて簡単に倒せるんじゃないだろうか。だけどしばらくすれば卵はすべて孵化してしまって、イカたちは広く薄く散ってしまうはず。
つまり、こんな風に倒しまくれるチャンスなんて今しかない。遠慮なんてしてる場合じゃないのだ。美味しいし。
――レベルが4に上がったダワ。称号『共食い王』を手に入れたモンデ、精神攻撃耐性が向上したダワ。
よし、また一つレベルが上がったわ!
だけど『共食い王』なんて称号がついてしまいましたわね。呪われたりしていなければいいのだけれど。
あと、できれば称号は共食い王じゃなくて、共食い女王とか、共食い令嬢とかにして欲しいところ。
それともう一つ、精神攻撃耐性というものがあるらしいことが分かった。まだ詳しいことは分からないけれど、攻撃を防いだり、はね返したりできる能力じゃないかしら?
他にも色々な耐性がありそうだし、いっぱい見つけて身につけたいわね。
マジョリーカは調子に乗ってどんどん同胞を狩っていく。
「こうなったらもう、食べまくりますわよ~!」
~~~~~
異界。現実世界の遠くにあるようで、とても近くにある不思議な場所。
現実世界からは何も見えない、何も聞こえない、そんな場所に彼女はいた。
「笑ってる場合じゃないダワ! せっかくあげたレベルアップ能力、ちゃんと丁寧に説明したのに、あの娘ったらすっかり忘れてるダワ。今更もう説明し直しできないダワ、想定外すぎるダワ。困ったダワ~っ!」
彼女こそがマジョリーカにチートを与えて転生させた張本人。異界にいる神、すなわち略してイカ神。
そんな人知を超えた存在が今……頭痛薬を求めていた。




