15.忍び寄って、狩るのですわ
ぐぅ~~~。
あれだけ巨大なエビ、それも今まで食べたことがないほどの超々高級エビをお腹いっぱい食べたのに、もうお腹が空いてきた。
イカってなんて燃費の悪い体なんだろう。エンゲル係数爆上がりですわね。
ぐぐぐぅぅぅ~~~。
一度お腹が空いたと感じたら、我慢できなくなってしまった。こうなったら狩りするしかない。
まずは餌になりそうなエビやカニ、小魚なんかがいそうな場所を探すところから始まる。
ここまでの経験からすると、体が小さいうちは襲われるのが怖くて、あんまり好き勝手に出歩けない。とするとやっぱり、岩がゴロゴロしていたり、海藻がいっぱい生えていたり、障害物になりそうなものが多いところが良いんじゃないかな。
もちろん問題点もある。そういう場所には小魚だけじゃなくて、小魚を食べる巨大魚や、さらにそれを食べる超巨大魚も寄ってくるってこと。
つまり食べ放題の場所は、食べられ放題なのだ。
嫌な話だけど、食べられてしまう危険を冒さないと、食べ物は得られない、ということでもある。これもまた、弱肉強食だけでは済まされない自然界の掟なのだ。
「これは二枚貝ですわ、ものすごく大きいですわね!」
周囲を見回すと巨大なホタテのような貝が見つかった。貝殻をパカパカ開け閉めしている。
挟まれたら痛そうだ。後ろに回って蝶番になってるところをガブッと噛んでみると、甘い貝の味が口いっぱいに広がった。
「この貝、すごくおいしいですわ~!」
閉じなくなってしまった貝殻を外して、ペロッと食べてしまった。すると中から出てきたのは、なんとマジョリーカの体よりもはるかに大きな巨大真珠。あの銀貨の大きさを考えると、直径十センチをゆうに超えている。
大きさといいツヤといい、間違いなく国宝級。前世の侯爵家でも到底買えないような大変な宝物だ。マジョリーカは知らないけれど、公爵邸で義母と義妹が眺めていた大粒真珠の倍以上の大きさだ。
「こんなもの、何の価値もありませんわね……。ポイですわ!」
食べられるわけでもないし、もったいないとは思わない。どうせそのあたりにゴロゴロ落ちてる。
さらに周囲を見回してみると、すぐ近くに海藻がたくさん生えている場所が見つかった。そこには巨大魚ではない、そこそこ大きな魚たちが群れている。鮮やかな赤の縞々模様で、ヒレもひらひらしてて美しい魚たちだ。
まずは海藻の多いところにすーっと泳ぎよる。するとその場にいた魚たちはサッと逃げ散った。あれ? あんまり素早くないんじゃない? 狩りやすいかな?
ただマジョリーカよりもかなり大きい感じだ。ただの魚ではなく、大魚と呼んだ方が良いだろう。
そのまま海藻に化けてゆらゆら揺れてみる。しばらくすると、一度逃げ去った大魚たちが戻って来た。それが十匹ほどいるだろうか。
ゆっくりと近づいてみる。すると何やら、こちらの方をチラチラ見てるヤツがいる。気づいているのだろうか?
そう思ったけど、どうやら気づいてない。というか、何か怪しい気配は感じているけど証拠が見つからない、そんな様子だ。
さらに少しづつ近づく。ギリギリ射程距離に入った。でもまだ遠いし、腕を伸ばしても恐らく逃げられちゃう。
だからと言って、これ以上近づくとやっぱり逃げられてしまうだろう。さっきからずっと怪しまれてるからね。折角の擬態だけれど、きっとバレてしまうに違いない。
「さて、どうしてあげようかしら?」
逃げられるの覚悟でもう少し近づいてみてもいいし、一か八かで腕を伸ばしてみるのもいい。このまましばらく待って近づいてくる可能性にかけてもいい。
だけど、マジョリーカが選んだのはそのどれでもない、四つ目の方法だ。
ビュッ!
体いっぱいに吸い込んでいた水を一気に噴き出して、大魚に向かって思いっきり踏み込む。ジェット移動だ。
それだけじゃなく、それと同時に両腕を一杯に伸ばして大魚を捕まえにいく。
もちろん大魚は逃げ出そうとしたけれど、大魚が泳ぐ速度よりもジェット移動の方がはるかに速い。そこからさらに両腕を伸ばしたのだから、大魚は逃げ切れるわけがなかった。
吸盤に生えた鋭い爪が、がっちりと大魚のうろこに食い込んだ。そう、マジョリーカの、というかイカの吸盤には、実はフチにそって、まるで歯のように鋭い爪が並んでいるのだ。
大魚は逃げようと暴れ回るけれど、暴れれば暴れるほど、吸盤は大魚に食い込んでいく。もう逃げられない。
がぶっ!
「い、痛いっ?」
逃げられないと分かると、大魚は反撃とばかりに思いっきり噛みついてきた。
「なかなか良い根性してますわね。そっちがそのつもりなら、こっちも本気で行きますわよ!」
マジョリーカの闘志が燃え上がる。




