14.王国事情#1
場所は大きく変わって、ここは小さな島国、イカルガニア王国。
前世のマジョリーカが生まれ育った国。
面積自体は小さいながらも、海運、そして商業が発展していて、この近隣では裕福な国のうちの一つだ。しかも他の強国とは海で隔てられているため、攻め込まれる危険性がかなり低い。
そのため能天気な王族や貴族たちが、先々のことなどあまり考えずに好き勝手をして暮らしている、そんな気風の国だった。
そんな王国の有力貴族家のうちの一つ、ゲソー侯爵の屋敷が、ここ十数年来で一番というぐらいの賑わいを見せていた。
「お母さま、こちらの黒真珠、とてもすてきだと思いませんこと?」
「でも、ミランダ、こちらの大粒の真珠の方が、しっとりと輝きに深みがあってよろしいんじゃないかしら?」
「確かにそうですわ、目移りしてしまいますわね」
「どちらと言わず、両方買えばよかろう」
「お父さま?」
「旦那さま、よろしいのですか?」
「ああ、全く問題ないぞ。いちいち無駄遣いするなとか、小煩かったマジョリーカは完全に排除したからな。もう誰に遠慮することもない。好きなものを買いなさい」
「ああ、お父さま! 大好きっ!」
「本当にありがとうございます」
「気にすることはない。マヌケン殿下に婿に来ていただく、そのための準備でもあるのだからな。みすぼらしいままにしておけば、我が侯爵家の未来が失われることになる」
こんな直径二センチもある大粒の真珠、追放したあのマジョリーカなんか、見る事すら出来なかっただろう、そう思うと余計に母娘の心は虚栄心に満たされる気がするのだ。
ちなみに。ゲソー侯爵家では、当代ゲソー侯爵本人ではなく、先代侯爵であったマジョリーカの実母が、そして彼女が亡くなった後は次代の侯爵としてマジョリーカが、家業である海運と商業、そのほとんどの面倒を見ていた。
ゲソー侯爵家がいくら大富豪だとしても、無限にお金が湧いてくるわけではない。しかしゲソー侯爵はあまりに浪費家すぎて、商売の運用資金にまで平気で手を突っ込むような男だった。そのためマジョリーカは何度もそれを止める側に回らざるを得なくなっていたのだ。
別にマジョリーカが悪かったわけではない。しかし元々マジョリーカを嫌っていたゲソー侯爵はそうは思わなかった。だからこそ王家筋の権力を利用してマジョリーカを強制排除した。それがマジョリーカ追放の一面の事実である。
マジョリーカの義母と義妹は新しい宝石、新しい貴金属、そして新しいドレスに、まるで浮かれたようにどんどんお金を費やしている。
本来ならそれを止めるべきゲソー侯爵は、逆にそれを煽っている始末だ。
「それよりも、そろそろ食事にしないか」
「ええ、そう致しましょう」
今日の晩餐は高級なイセエビを出すよう命じている。
「おや? いつもより小さいのではないか? コック長、どういうことだ?」
「それが、旦那様。漁師たちによると、どうやら北の海の漁場が荒れているそうで、あまり大きなものが獲れないようなんですわ」
「そんなもの、カネを出せばいくらでも何とかなるだろうが。ワシを誰だと思っておるんだ!」
ゲソー侯爵は激高してコック長に怒鳴りつけた。
「あなた、よろしいではありませんか。今日はこれで我慢いたしましょう」
「……お前がそういうなら、そうしよう。だがコック長、次にこのようなことがあれば、お前の首だけでは済まさんぞ!」
本当はすぐに取り換えさせたいところだけれど、いますぐエビを捕まえて来いというのはさすがに無理すぎるし、取り換える間、空腹を我慢するのも許せない。ゲソー侯爵は夫人のとりなしもあって、グッと怒りをこらえる。
ゲソー侯爵一家は出されたイセエビを食べ始めた。だけどやはりいつもに比べて若干味が落ちている気がする。それでも十分高級イセエビだったのだけれど。
マジョリーカが食べた超々高級巨大エビとはまったく勝負になっていなかったが。
少しのトラブルはあったものの、どこまでも続いていくかと思える華やかでキラキラした世界。
だけどゲソー侯爵家の未来は、このままで大丈夫とは思えない。




