12.海老は尻尾に限りますわ
「まったく暇ですわね……」
マジョリーカは暗い穴の中で暇を持て余していた。
巨大エビは倒したし、レベルも大きく上がって強くなった。でもまだ大きな仕事が残っていたのだ。そう、自分よりもはるかに大きい巨大エビ、これを食べないといけないのだ。
「いくら美味しくても、少し飽きてきましたわね」
イカの体は本当に便利だ。今もこうして手足と口が頑張って、とんでもなく大きなエビを自動で食べてくれている。それもちゃんと美味しい尻尾から。
イメージとしては、手足の一本一本が、自分で考えて自分で動いている。それもみんなで話し合っているかのように、ちゃんとお互いで調整して、混乱したりしないのだから素晴らしい。
人間の時の食事は、マナーがどうでこうでと、やたらと煩わしかったことを思い出す。今から思うと、あれこそ自動モードが必要よね。
食べること自体は体が勝手にやってくれるのでそう大変でもない。だけど食べている間は他の場所に移動できないし、他の事をすることもできない。ただずっと食べ終わるのを待つだけの退屈な時間なのだ。
もちろん無理に食べずに、ここに置いていくこともできる。でもなんとなく、しっかり食べておかないと体が大きくならない気がするのね。
敵を倒してレベルを上げて、しっかり食べて体を作る。このサイクルが大切なんじゃないかと思っている。分からないけど、たぶんきっとそう。
だから食べてる。もちろん美味しい尻尾から。
巨大だからやたらと時間がかかる。
食べてる間は、何もやることが無くて暇。つまりそういうこと。
穴の中だからある程度は安全だけど、眠ってしまうのはマズいだろう。それに何もないのにずっと眠らず起きている、というのも結構たいへんなのだ。
かなり長い時間をかけて、巨大エビの尻尾をほとんど食べ終わったころ、なんだか背筋がピリピリするような酷い悪寒を感じた。
何これ? こんな感覚、今まで一度も感じたことはない。
よくあるような、ただの嫌な予感じゃない。危険! 危険! 頭の中で誰かが、大声でそう叫び回っているような感覚。
今マジョリーカがいるのは巨大エビの穴の中だ。敵から見つかりにくいのは確かだけれど、見つかって攻撃されたら逃げ場がない場所でもある。
この不思議な感覚、これが獲物をおびき寄せるための罠の可能性だってある。でも本当に危険を知らせてくれている予感かもしれないのだ。
「少し外に出て、様子を見てみようかしら?」
罠にしても、本当に危険が迫っているにしても、外に何か大型の敵が来ているかもしれない。その様子を覗きに、穴のふちまで移動してみた。
その途端。
危険! 危険! 頭の中の危険警報が、頭痛がするほど大きくなる。
あ、待って! これ、違う! ここ、穴のふちじゃない!
気づいたと同時に、マジョリーカは全力で水を噴射して逃げた。そのマジョリーカがいた場所に、丸太のように太い触手が飛んでくる。
タコだ!
倒した巨大エビよりも巨大なタコが、岩に擬態して近づいていたのだ。
マジョリーカは必死に逃げる。
もちろん追いかけて……くる?
いや、タコは追いかけてこなかった。ギョッとした表情を浮かべただけで、マジョリーカを追わず、そのまま見送ってくれる。
どうやらマジョリーカよりも、彼女が残した食べかけの巨大エビの方を選んだようで、その巨体で穴の中に潜り始めた。
もしかしたらこの巨大タコは、巨大エビの匂いにつられてやってきたのかもしれない。
「あと少しグズグズ迷っていたら、危なかったですわ……」
命が助かったことにホッと胸をなでおろす。
ここはやっぱり悪魔の海なのだ。油断も隙もあったものじゃない。




