第3話
数日後。包装したブロッコリーを職場の産直『ほのぼの亭』に納品したハナエは、パート仲間の田村との雑談に花を咲かせていた。
「昨日のあまちゃん、懐かしくて良かったわぁ。昔のベストテンみたいなテレビやってたじゃない。清水ミチコがまた司会役にハマっててね〜」
揃いの濃い緑色のエプロンを付けた田村は、商品棚の飲料の補充をしながら話を聞いている。
「そうなの? 昨日は寝坊しちゃって見れなかったのよね」
紙パックの牛乳や野菜ジュースが手際よく次々陳列されていく様は、いつ見ても気持ちがいい。
「録画してあるから、仕事終わったら見に来る?」
クリップボードの書類に商品数を記録した田村は、驚いたように顔を上げた。
「いいわよ〜! お嫁さんに申し訳ないし。再放送やるだろうからそれまで待つわ」
大げさに両手を振る田村。
彼女のこういう慎ましさがハナエには好ましかった。
「大丈夫よ梓ちゃんはそういうの気にしない人だし。ゆっくりお茶でもしながらさ。美味しいお菓子もあるし」
「何の話?」
話に入ってきた他のパート仲間にも、声をかける。
「あまちゃんの録画見にうちに来ないかって。森本さんもどう? あ、河合さんも誘おうかしら! 藤澤さんも! みんなで鑑賞会しましょ!」
「え……ちょっと大丈夫なの……」
戸惑ったような田村に、にっこりと微笑み返す。
全く、家主がいいと言っているのに。本当にこの人は水臭い。
「ちょっとちょっと! おしゃべりもいいけど、ちゃんと仕事してね!」
店長が水を差してきて、集まっていた面々は持ち場へ戻った。
もう少し話していたかったが、仕方ない。
途中にしていた掃除に取り掛かったハナエの首筋に――。
「店長、うるさくてやんなっちゃうわね」
田村だと思った。しかし、振り向いた先には誰もいない。
売り場に陳列した、ビニールに包まれた自家製ブロッコリーがただあるだけだ。
ごつごつとした濃い緑色に、滑らかな黄緑色。
肥料や土づくりにこだわり、夫と協力して作り上げてきた畑で育ったブロッコリーは、とても美味しいと評判だ。
野菜嫌いの孫娘ですら、もりもりと食べてくれるほどに。
これはずっと農業と主婦業ばかりやってきたハナエにとって、唯一の自慢ともいえるものだった。
もっとも、ハナエ自身はこのブロッコリーたちの味を知らないのだが――
「やだ。一人で喋って。恥ずかしい」
首をかきながら、ひとりごちる。
そんなことはどうでもいい。
仕事の後の楽しみを、ハナエは密かに噛み締めていた。




