第4話
「ただいまー! 梓ちゃん、お茶準備してくれる? 五人分!」
終業後。
田村をはじめとするパート仲間を連れて帰宅したハナエは、何故だか鍵の閉まっている玄関をノックした。
鍵は、持ち歩かない。梓が家にいるのだから、開けてもらえばいい話だ。
四回目のノックをした時、扉が細く開いて梓が顔を出した。
「今日……何かありましたか?」
お帰りの一言でも言ってくれればいいものを――
いつもの仏頂面を更に不機嫌そうに歪める梓に、ハナエは続けて言った。
「みんなとあまちゃん鑑賞会することになったの!」
「そんな急に言われても……片付けてないし……」
梓の目が、ハナエの後ろのパート仲間を見やる。
「ごめんね……急にはどうかと思ったんだけど……」
あまりの不機嫌さに、田村はおずおずと下を向いてしまった。
家につくまで何度も日を改めようと言った彼女を、大丈夫だからと無理やり引っ張ってきたのは自分だ。
その自分の前で、そんなに嫌な顔をすることはないだろうに。
「いいじゃない! 今日梓ちゃんお休みでしょ? 一緒に見ればいいじゃない!」
「ですから! そういう問題じゃなくて……!」
「さ、入って入って!」
梓を無視して扉をこじ開ける。
「ちょっ……! 待ってください!」
くたびれた寝間着姿の梓が、開かれた扉を慌てて閉めようとする。
彼女の背後には、畳まれていない洗濯物の山。
さらにその向こうには、朝食のまま片づけられていない食卓がそのまま鎮座していた。
「あら、やーだわぁ。こんな時間なのに……」
咄嗟に言葉が出ず、ハナエは言い訳するように背後の面々に声をかけた。
「ごめんなさいね、お見苦しくて。若いからやっぱりそういうところもあって……」
ハナエの話など聞いていないかのように、田村が問う。
「梓さん、顔色悪いわよ? 具合悪いんじゃ……?」
不出来な嫁にまで気を使えるなんて、この人は本当にいい人。
「そんなことないって! ね、梓ちゃん」
もはや扉を閉めることすらあきらめた様子の梓は、「……はい。大丈夫です」と俯いて言った。
その顔は確かに青白く、生気がないように見えないこともない。
そういえば、ここ数か月サニタリーボックスが空だ。もしかして――
「もしかしてオメデタ? 最近生理来てないもんね?」
「何で……それ……!」
梓の顔が強張った。ハナエの心の中に、言いようのない嬉しさが満ちる。
「やだー! そうならそうって早く言ってよ!」
梓の肩をバシバシと叩くハナエに、パート仲間たちが「ちょっと……さすがに……」と声をかけてくるが、おめでたいことをそうして隠したがるもの最近の人の面倒なところだ。
「ごめんなさいね! そういうことなら梓ちゃん寝てたいわよね! いいわ、お茶は私やるから!」




