10_デイジー
読んでいただき、ありがとうございます。
今回は長めになっています。
結婚を約束した私達は、まずは一緒に暮らす事から準備を始めた。
いわゆる同棲生活というもので、ジークは元々教会の中にあった寮の中で暮らしており、私の部屋では手狭になるため、二人で新しい部屋に引っ越しをすることにした。
私の荷物のほとんどは花で、引っ越し先の部屋の日当たりのいいベランダに並べて、育てることする。ジークも一緒に手伝ってくれて、花を飾るために棚を作成してくれた。
ジークの荷物はほとんどが服で、仕事用の服と私服だけ。
ジーク曰く、教会で暮らしていると荷物などはほとんどないらしい。
本なども専用のロッカーがあるらしく、そこで管理するようになっているのだとか。
そうしてなんだかんだと荷物を搬入し、私達の生活が新しく始まった。
とはいってもお互い仕事もあるので、朝からドタバタするのは目に見えてる。
「ふあ・・・・・・。おはよう、ソラティ。」
「おはようジーク。寝坊しないようにね。朝ごはんにコーヒーとヨーグルトと目玉焼きのせトーストあるけど。」
「ありがとう。」
ダイニングテーブルに乗せた朝食を見て、ジークは眠そうな目元をこすりながら、椅子に腰かけると手を合わせて祈りを唱えてから朝食を食べ始めた。
眠そうにしながらも美味しそうにもぐもぐ食べているジークを見ながら私はカウンターキッチンから紅茶を一口飲んでから持っていくための荷物を鞄に詰めていく。
窓から見える景色はまだ暗く、朝が早いことを教えてくれる。
「引っ越してもう2カ月か、あっという間だな。」
「そうだね。もう2カ月も経つんだね。」
「毎朝ソラティに会えるなんて、幸せだな。」
「ふふ、私も毎朝寝坊助のジークを起こすの、楽しいですよ。」
「それは言わないでくれ。」
恥ずかしそうに朝食を食べるジークに微笑みながら私は、荷物の準備を終えてジークの対面側の椅子に紅茶の入ったマグカップを持って腰掛ける。
パンを食べきってからヨーグルトをほおばるジークの姿を見つめながら、紅茶を一口飲む。
そうして朝のゆったりとした時間を過ごした後、お互いに仕事へと向かう。
ジークはバイク、私は徒歩でそれぞれの仕事場へと向かう。最初はジークに送ってもらっていたが、それだと到着時間が早すぎるので、今は歩いて向かうことにしている。
「いってらっしゃい。ソラティ。」
「ジークも。いってらっしゃい。」
「今日は迎えに行く。」
「ふふ、ありがとう。晩御飯のメニューも考えておいてね。」
「もちろんだ。」
私の額に口付けてからジークがバイクで教会へと向かっていくのを見送ってから、私も花屋へと向かうことにした。
「ソラティちゃん。今日はもう引き上げるよ。」
「はい。花をしまいますね。」
夕暮れの中で私が店先の花達を店内に移動させていく。
室内の温度を確認し、花達を戻していく。
今日は店長も家族サービスとして家族でディナーに行くらしい。
そのため今日はいつもより早めの時間で閉店作業になった。
「ごめんね。ソラティちゃん。」
「いえいえ。あとは私の方でできますし、店長は先に上がってください。」
「じゃあ、今日はお言葉に甘えて上がらせてもらうわね。」
「はい。お疲れ様です。」
店長はそのまま荷物をまとめて足早に帰っていく。
やはり急がないといけなかったのかな。
そう思いながら花達を店内に戻し、温度調整を済ませると、店内の奥で荷物をまとめていく。
「よいしょっと。」
片付けが終わり、店の出入り口に鍵をかけていると後ろでバイクが止まる音が聞こえた。
振り返ると、ジークがバイクにまたがったままこちらを見ている。
「今日はもう終わりなのか。」
「そうなの。店長の用事でね。」
「そういう事か。なら一緒に晩御飯の買い物にでも行こう。」
「そうね。」
バイクの後ろにまたがってジークに掴まると、少しゆっくりとしたスピードで走り出してくれる。
少し走っていると、目的の食料品店に着く。私がバイクから降りていると、ジークの視線が私からどこか遠くを見るように移動し、その表情が険しいものになっていく。
「ソラティ。ここで買い物をしていてくれるか?」
「・・・・・・魔物ね。わかったわ。」
「いつもすまない。」
「いいのよ。貴方にしかできない事だもの。」
「・・・・・・すぐに戻る。ここにいてくれ。」
そう言い残し、ジークはバイクを走らせて行ってしまう。
こういったことは日常的とまではいかないが、たまにある。怪我無く帰ってきてくれればそれで充分なんだけれど、ジークは一緒に入れる時間が減ることが辛いらしい。
ジークを見送ってから私は、お店の中に入ってかごを手に取り今日の晩御飯のメニューを考える。
そういえばジークに聞くの忘れてた・・・・・・。まあ、ジークの好きな肉を使ったご飯にしよう。
かごに次々食材を入れていると店の外で叫び声が聞こえる。
まさかと思って窓の外に目を向けると、ジークが魔物に突き飛ばされているのが見えた。
「ジーク!」
かごをその場において店から出ると、ジークが魔物に襲われているのが目に入る。
魔物は二足歩行で、鋭いかぎづめを持っているようだ。ジークが怪我をしているのが見える。夕暮れの闇に紛れるような真っ黒な姿に私の足はすくんでしまう。
ジークが私の方を見て逃げろと叫ぶ。だが、足がすくんで動けないでいると私の視界の端に、司教杖が落ちているのを見つける。
あれをジークが使えれば、助けられる。
そう思ったら足が走り出していた。
幸い魔物はジークに集中しているので私が走っていることには気づいていないようだ。
なんとか司教杖を手に取るが、これをどうやって渡したらいいのかと悩んでいると、魔物が私の方に気付いたようでジークの叫び声が聞こえる。
「ソラティ!逃げろ!」
「え・・・・・・?」
ジークの叫び声に私は顔をあげると私に気が付いたらしい魔物がこちらに走って来るのが見えた。
このままじゃ、私も死んでしまう。ジークも殺されてしまう。
でも、逃げることもできないなら・・・・・・。せめてジークを守りたい。
私は、迫りくる魔物に司教杖を向けて迎え撃つように声を張り上げる。
「かかってきなさい!」
「やめろ!ソラティ!」
魔物の腕が振り上げられた時、私は目をつむって司教杖を振り上げた。
だが、痛みは襲ってこず、逆に魔物のうめき声が聞こえてくる。
恐る恐る目を開けると私の手に別の人の手が添えられていて、司教杖からは白い光が放たれている。
「ソラティちゃん。けがはない?」
「レ、レト司教様・・・・・・。」
私の横にはレト司教様が立っていて、私の持っていた司教杖を操って魔物を透明な球体の中に押し込めていく。
少しずつ、魔物が球体の中に押し込まれていき、その体がすべて入ると、球体はレト司教様の手の中に納まった。
私はその光景を見て安堵してから、けがをしたジークの許へ駆け寄る。
「ジーク!大丈夫?」
「ソラティ、お前死ぬかもしれなかったんだぞ。」
「ごめんなさい。でも、ジークが私達を守ってくれるように、私もジークを守りたい。」
「・・・・・・オレ達同じ気持ちっていう事か。」
痛そうな傷を受けているのに、ジークは笑って私をけがをしていない方の腕で抱きしめてくれた。
私も傷口に触れないように、そっと抱きしめてジークの無事を全身で感じる。
そんな私たちのそばで一輪のデイジーが綺麗な花を咲かせていた。
デイジーの花言葉はあなたと同じ気持ちです。




