覚悟
私は混乱していた。
ダリア様の方から婚約破棄を申し出たことにも、ダリア様の好きな相手が入口付近で控えている従者(今にも気絶しそうな顔面蒼白の青年である)ということにも、王妃様が何も口を挟まずに、なんだかすっきりとした様子で部屋から出て行ったことにも、ついでに殿下も部屋から出て行ってしまったことにも。
「ど、どういうことなのでしょうか。」
「あら?さっきの通りだけど。あぁ、もうそんな顔しないで。わかった。ちゃんと説明するから。」
冷えてしまったお茶を、私とダリア様の2人分、ダリア様の従者が再度淹れる。それを一口飲んで、ダリア様が説明してくれた。
「ま、事前に王妃様には言ってあったのよね。レンギョウ様との婚約を取り消したいこと。それから、半年間、逃げていたこと。」
「言っちゃったんですか!?」
「言っちゃった。」
ぺろりと舌を出しておどけるダリア様だけれど、下手したら国際問題になりかねないのによくぞ言った。さすが生粋のお姫様は肝が据わってらっしゃる。
「よく怒られなかったですね。」
「そりゃお父様にはものすごく怒られたわよ。説得事態、レンギョウ様との婚約が決まるずっと前から密かにしていたけれどね。結局はお父様が折れてくれたって感じよ。アオイが…あぁ、そこにいる私の従者ね。アオイが自分の意思で私を娶る気があるなら良いとまで言質はとっていたの。ただ、アオイったらもう、何度迫ってもその気になってくれなくて。私すごく頑張ったのよ?ほんと鈍感だしヘタレなんだから。私のこと好きなくせに身を引こうとするし。で、時間切れでレンギョウ様との婚約が決まってしまったけれど、私、あきらめきれなくて、逃げちゃったの。…そしたら、アオイもようやく覚悟を決めてくれたみたいで。」
ふふっと笑うダリア様の笑顔は本当に幸せそうで、従者と目を合わせる空気はとても甘く穏やかだった。
「王妃様はね、私とアオイの身分差の恋に感動したみたいなの。それに、レンギョウ様と貴女にもね。」
「身分差…ですか。」
「なんでも王妃様の中で今ブームなんですって。“身分差”が。ちょうど城下に劇団が来ているのだけれど、その演目が“身分差の切ない恋”を描いたものなの。しかもその演劇は、2人の恋が叶わずに駆け落ちして死んでしまう悲恋なの。国王と王妃様は元々政略結婚だけど、互いに一目惚れして実質恋愛結婚みたいなものだったらしいから、自分の息子に悲しい思いをしてほしくなかったみたい。2組の恋人同士を引き裂くことになるしね。」
「そう…だったのですか。」
殿下、城に帰る道中、あんなに悩んでいたのはなんだったのでしょう。身分差の恋にはまっている王妃様と勢いに任せて自分で白状してしまったダリア様との間ですでに話はついていたなんて。殿下の心境を慮ると泣けてきます。
というか、王妃様が認めたってことは、私するの?殿下と。結婚を。あれ?どうやって殿下がダリア様と婚約破棄すればいいのかばかり考えていたから、実際婚約破棄を認められてからのことなんて考えていなかった。
だって、殿下ってば、今更ながら、フルール王国の王太子なのよ?次期国王なのよ?背も高くて、剣の腕だってあって、頭も良くて、すごく…その、格好いいのよ?私でいいの?こんな平凡な田舎男爵の娘が……
と内心慌てているところに殿下が戻ってきた。
「あら、レンギョウ様。意外と早かったですわね。そうそう、紹介するわ。こちら、わたくしの夫となるアオイよ。アオイ、ご挨拶なさい。」
「あああの、わわたくくしは、アオイ、と申しますす。あの、この度、レンギョウ王子殿下におかれましては、」
「そんなに畏まるな。お前には感謝している。よく決意してくれた。」
「いえ、決意させられたというか、脅されたというか。」
「アオイ?」
「いえ。なんでも。」
「まぁいいわ。それよりアオイ、私たちはお邪魔でしょうから、そろそろ部屋に戻るわよ。」
ごゆっくり、とウインク付きでダリア様は部屋から出て行った。アオイさんを引きずりながら。




