20話 青空の下、空色の結婚式
雲ひとつない、どこまでも抜けるような晴天に恵まれた日。
太陽のやわらかな光が王都を包み込み、街中が祝福の空気に満ちあふれていた。
王都で最も格式の高い大聖堂。
その壮麗な扉の前で、私は純白のウェディングドレスを身にまとい立っていた。
頭には繊細なレースのヴェール。
結い上げられた髪には、あの日ユーリが贈ってくれたあの青い硝子の髪飾りが煌めいている。
「うっ……ううっ……アイリス……本当に、本当に行ってしまうのか……? 今からでも遅くはない、パパと一緒に屋敷へ戻ろう……っ」
私の隣で、エスコート役を務める父が、今にも泣き出しそうな顔でプルプルと体を震わせていた。
私の腕を固く抱え込み、往生際悪く未練がましい言葉を漏らしている。
「パパ、もう諦めてちょうだい。今日は私の結婚式なのよ。そんな情けない顔をしていたら、周りの皆様に格好がつかないでしょう?」
私が呆れ混じりに諌めると、父は泣きそうになりながらも、覚悟を決めたように鼻をすすった。
細やかな意匠がほどこされた扉が、ゆっくりと左右へと開かれてく。
ステンドグラスから差し込む光が散らばる聖堂内には、伯爵家の親族、そしてシェフィールド公爵や第一騎士団の仲間たちが並んでいた。
祭壇まで通りへと続く、神聖なバージンロード。
その先に立つ彼の姿を、私は見つめた。
一歩ずつ父と歩みを進めるにつれて、その姿がハッキリと見えてくる。
純白のタキシードに身を包んだユーリ。
普段の姿とはまた違う、息をのむほど上品な凛々しさに、見ているだけで何度も胸が惹かれる。
祭壇の前の階段に辿り着き、私と父は足を止める。
「アイリスを……頼むぞ、ユリウス殿……。もし泣かせたりしたら、私は……ううっ……!」
父は絞り出すような声でそう告げると、名残惜しそうに私の手を離した。
今にも崩れ落ちそうな体を起こしつつ、涙をハンカチでぬぐいながら、よろよろとした足取りで自席へと着席していった。
私はドレスの裾を踏まないように、ゆるやかな動作で階段を登っていく。
一歩踏みしめるたびに、これまでの出来事が走馬灯のように胸にすぎ去っていく。
悪役令嬢として破滅する未来を恐れ、家を飛び出して始まった静かな隠れ家での暮らし。
あの日、庭で手傷を負って倒れていた彼を拾ったこと。
正体不明の居候として過ごした、甘く温かな時間。
別れの前夜、涙を流しながら交わした約束。
運命から逃げ出した先で、私はこんなにも愛おしく、かけがえのない人に出会えた。
階段を登り切り、私はユーリのすぐ隣へと辿り着いた。
(ユーリ……)
ヴェール越しであっても分かるほどに、彼の髪は美しく金色に輝いていた。
今日の空のように澄み渡った空色の瞳が、慈しむような光を宿して私だけを見つめている。
「綺麗だ、アイリス。世界で一番美しいよ」
小声で優しくささやかれ、私の頬がヴェールの中で熱くなった。
「ユーリも……すごく格好いいわ」
見つめ合い、互いに微笑みを交わす。
やがて、粛々と執り行われる厳かな儀式。
祭壇の上に立つ牧師様が、オルガンの音色の中で静かに問いかけてきた。
「ユリウス。汝はアイリスを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、これを愛し、敬い、生涯守り続けることを誓いますか?」
「はい、誓います」
ユーリは微塵の迷いもなく、力強く、凛とした声で答えた。
「アイリス。汝はユリウスを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、これを愛し、敬い、生涯支え続けることを誓いますか?」
私はユーリの瞳を見つめ返して、心からの想いを込めて答えた。
「はい、誓います」
互いの言葉に偽りがないことを示し、私たちは差し出された純銀の指輪を手にとった。
ユーリが私の左手の薬指に、そっと指輪をはめ込ませる。
私もまた、彼の左手薬指に指輪をはめる。
柔らかな金属の感触が、二人の結びつきを証明するように温かく馴染んでいった。
「では、誓いの口づけを」
ユーリの手が、私の顔に流れ落ちるヴェールをゆっくりと持ち上げた。
視界をさえぎっていたレースが上げられ、目の前に彼の顔が迫る。
彼の温かい手が私の頬を優しく包み込んだ。
「もう二度と、君の手を放さない……。愛しているよ、アイリス」
「私も……一生、あなたの隣にいるわ。愛しているわ、ユーリ」
互いに甘い愛をささやき合い、私たちは静かに目を閉じた。
心からの愛を宣誓するために、重なる唇。
触れ合う熱を通じて、二人だけの永遠の誓いが、心の奥深くまで浸透していく。
盛大な拍手と、天井から降り注ぐ色とりどりの花びら。
寄りそい合い、手を取り合った私たちは、新しい未来へ向かって、輝かしい光を浴びながらゆっくりと歩み出すのだった。
ここまでご愛読ありがとうございました!
物語はここで一旦完結となります。
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連載中の「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
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