第六話 権力とオネェ様
(早かったわね、堕ちるの。まぁ楽に越したことはないわ)
あとは、父親を落とせば完璧である。
義兄だけじゃ、やはり心もとないので。
「ふふ、いいお返事ありがと」
ぽんぽんと背伸びをして頭を撫でてやろうとしたら、自ら屈んだ。
撫でやすい。助かる。
「っ〜〜〜、なんたる幸せ…光栄すぎて鼻血が出そう…耐えろ俺…」
大丈夫ではなさそうだった。
まぁ、放っておこう。
「さて、戻らないと」
仲良しアピールもしなくては。
ふふ、楽しみだ。暫くは泳がせてやるが、それでも逃げなかったやつにはアタシという恐怖をくれてやろう。
リーンは穏やかで聖人。
そのイメージを反転させると人はどうなるか
Answer、怖がる。頭でも打ちましたか?とかそれでも煽ってきた奴はぶちのめそう。で、仲間に入れてやる。更生のために。
「ふふふふふ」
あらやだいけない。こんな顔しちゃ駄目ね。
「?」
不思議そうなルルへニコッと笑ってなんでもないよと伝えるように扉の外へ促す。
「行こっか」
腕を絡める。仲良しですよとアピールだ。
心なしか赤い顔がまたいい味を出している。
「あ、ああ…」
食堂に戻る道すがら、侍従たちが二度見、三度見している。
もういじめては駄目なんだなと理解したものと、大量ハテナマーク状態で宙に行ったものがいた。
後者が断然多い。
「ど、どうしたのかしら、嫡男様…」
「愛人の子と腕を絡まれて顔を赤くするなんて…!!」
「わ、私たち叱られないわよね…?」
などなど疑問と非難の声が上がった。
がしかし、ルルはこの公爵家の嫡男である。物申せるものはいないに等しい。物申せるものは、当主か、王家の方々くらいである。
(王家の人たちにも会ってみたいわよね)
悪役令嬢とか、仲良くできそうだわ。
このゲームにも、悪役令嬢はいる。ただし、昔ながらの乙女ゲームのように処刑はされない。ただ、筋肉ムキムキの辺境伯に嫁がされるだけだ。要するに厄介払いである。まぁ、辺境伯は貴族らしくないと嫌われているがアタシとしては辺境伯様は結構好きだった…筋肉好きとしてはたまらない。
なよなよは包んであげたくなるが、筋肉は包まれたくなる。
「…リーンくん?大丈夫か?」
いけない。今は仲良しアピールをしなくては。
「大丈夫です!心配してくれて、ありがとう」
天使スマイル。
穏やかで慎ましやかな口角の角度と優しげに細められる目尻の角度がもっとも大切である。
「そ、そうか…ならよかった…」
うまいことやれば、簡単に人が堕ちる。
なんだか楽しいと思うリーンは天使ではなく小悪魔かもしれなかった。
「ルル様…その、そちらの子は!卑しい愛人の子です!はやくお離れになったほうが…!」
腹は立つが、我慢我慢…我慢…。
「それに、あの愛人の子ですよ?奥様から旦那様を奪い、旦那様から貴族としての評価を落としたあの愛人の子。卑しいに決まっています。貴方を利用しようとしているのです!!」
興奮しているのか瞳孔が開いている。私は正しいと信じてやまない顔だ。
厄介だ。このような輩は正論を返したとて、私は正しいからと違う方法で手を出してくる。
龍ヶ崎は泣かなくてもリーンが泣いているのか、涙が出てきた。
それを見て、侍従がリーンくんを泣かせたのだと理解したびきっと青筋を立てるルル。
「…私が決めたことだ。口を出すな。それと、お前は私に口を出せる立場なのか?ぶを弁えろ」
リーンを守るように立つルル。
「ここは俺に任せて。リーンくんは一歩後ろに」
耳そばでこそりと伝えられた。
…任せてみるか。駄目そうならアタシが相手をしよう。
「あぁ、なんて卑しい!!!!やはり愛人の子は…!!」
声がだんだん大きくなる。
ムカつくな、アタシのリーンを侮辱しやがって。するならアタシにしなさい!
涙が止まらなくてかっこつかないけど…!!
「黙れ」
コツッ、と革靴が鳴った。
ルルが侍女に一歩近づく。
「る、ルル様…?分かってくれましたか!?」
私は正しいのになんでそんなに怒ってるんだと首をかしげる侍従。
「黙れと言っている」
ルル・アスペラス。いつもは温厚で何故かリーンにだけ当たりが強いと言われている男。
その男が、リーンのために怒っていた。
「リーンくんを侮辱するなッ!!!」
ぶわっと旋風が巻き起こった。




