ブラックは怖い人
すまないがもう一度話を聞きに伺わせてもらえないだろうか。
◆
朝、新聞をとりに出たシロは、別の封書が投函されているのを見つけた。
シロに宛てて送られているが、消印はなく、自身の手で投函されているであろうそれは、ブラックからの手紙だった。
パールトンが書く手紙の、10分の1程しかない短い手紙。
それには再会の依頼と、ブラック・モントベールというサインのみが書かれていた。
「…いやぁ…ブラックさん…。」
父を捜索してくれているブラックと会うのは何の問題もない。
手伝うと決めたのだから、それは当然だ。
しかし、この手紙には大事な点が抜け落ちている。
「どこに返事を書けばいいんだろう。
ブラックさんは、抜けているところがあるのかな。」
シロはそう考えたが、もちろんブラックなりに考えがあってあえてそうした。
シロを疑っている訳ではないが、シロとヴァーミリオン、シロはパールトンと呼んでいるが、その2人の繋がりが分からない。
ブラックはシロの魔法を見たので、シロを水の魔法使いだと理解した。
よくある、水を生み出し、それを操る物だ。
そして、ヴァーミリオンは空間魔法の使い手として有名なので、それも知っている。
空間魔法は貴重で大変珍しくはあるが、その内容は見えない倉庫のようなもの。
檻の中にいるヴァーミリオンが、ついこの間父親が失踪するまでは平和に生きていた、シロと繋がる理屈が分からないのだ。
そこで確かめるため、返信先の存在しない手紙を書いた。
そこまで珍しい魔法ではないが、文章を送りつけることの出来る魔法使いも存在するので、シロが水と通信魔法の二つを使える可能性を考えたのだ。
「仕方ないから、学校の帰りに警察署へ寄ろう。」
その推理は的外れ。
意図もシロには伝わらなかった。
◆
「なぁ、シロ、氷が使えるようになったきっかけってなんだ?」
テルと魔法の実習の時間。
水を凍らせたシロに触発されたテルも、火魔法次のステップ、爆発を目指しているのだが、中々進展はしていなかった。
試行錯誤は重ねているが行き詰まり、拗ねたようにそう尋ねられた。
シロ自身、原因は分からないが、思い浮かぶ理由はある。
「んー、分からないけど、最近魔力が増した気がする。」
パールトンと魔法が繋がった結果、どうやらそうらしい。
1人の時に凍った理由を考えてみると、それぐらいしか考えられなかった。
そのことをパールトンへの手紙へ書いたところ、こんな推察が返信された。
パールトンが言うには、時空魔法自体が燃費の悪い魔法属性らしく、使用する際の消費が激しい訳ではないのだが、常に魔力の大部分を占有しているらしい。
使用した時に減るのではなく、常に減った状態になる。
そういう魔法らしいのだ。
なので、もしかすると空間属性が芽生えた時に、シロ自体の魔力総量も増大した。
でないと、魔法自体つかえないから。
そういう推察であった。
「それにしても増えすぎているから、本当に不思議だけどね。
例えば、シロ君の魔力総量と、私の魔力総量が合わさったぐらいになるのなら、何となく納得はいくのだけれど、それよりも遥かに多いのだから。」
そう締められた手紙を読み、少し不安な気持ちは残ってはいるが、そもそも2人の魔法が繋がること自体がかなり珍しい現象なので、深く考えても仕方がないのかもしれない。
「じゃあ、操作が上手くなった訳じゃねぇんだ。」
「そうなんだよ。
増えた魔力でゴリ押して出来るようになった感じ。」
「一気に増えるなんてめちゃくちゃ珍しいな。」
魔法の成長は階段に例えられる。
訓練でじわじわと増える魔力と日々の積み重ねで上達した制御力が噛み合った時に、次の段へと足を踏み入れることが出来る、と。
それをすっ飛ばした話も多々あるが、それは、まるで。
「英雄譚みたいだなー。
ま、家が大変だったんだから、それぐらいの良いことがあっても良いよな、シロ。
うし、俺ももうちょい頑張るから、手伝ってもらっていいか?」
「もちろん。
僕も制御に関してはまだまだだから、助かるよ。」
2人は的へ魔法を放つ。
方や、火。
方や、水を。
父が居なくなった事は、シロの家族に影を落としている。
母もシロも早く無事に帰ることを願っている。
そんなシロの救いにはならないかもしれないが、逆に得られたものもある。
膨大な魔力と、大切な友人。
その二つだ。
◆
シロは放課後、警察署へと向かう。
もしかしたら、警察署ではなく現場にいるかもしれないと獅子のレリーフの目線の先の路地裏を覗き込んでみたが、そこにブラックはいなかった。
しかし、捜査をしているという推理は的外れではなかったらしく、屋台のフルーツジュースのカップを右手に持ち、噴水に腰掛けているブラックを見つけられた。
「甘いもの、好きなんですか?」
「いや、苦手だから困っていたんだ。
シロ君、いるか?」
シロは苦笑いしながら差し出すブラックからカップを受け取り横に腰掛ける。
「苦手ならなんで…。」
可愛らしい動物が描かれたコップを見ながら、シロが問いかけると、ブラックは恥ずかしそうに少し早口で答えた。
「聞き込みでな。
時間を奪うのに何も買わないのは申し訳ないだろう。」
「いや、それは分かってるんだけど、苦手ならなんでわざわざ一番甘いやつを選んだのさって。」
ブラックは頬を掻きながら、目を逸らす。
そして少しの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「…あー、知らなかったんだ。
屋台にはあまり来たことがなくてな。
俺は軍人遺児でな、親がいなかったのさ。
家族で買い物に周ることが多い場所だろう、ここは。」
「…軍人遺児…。」
今から10年ほど前、戦争があった。
それは地方領主の小競り合いだったが、悪化する懸念があり、国から軍が派兵された。
よくある、歴史書には2行程度しか記されない小さな戦争ではあるが、死者も出れば遺族もいる。
「…今の所、僕もそうなりそう。」
「あぁ、君の父も軍人だったな。」
シロの失踪した父は軍人であった。
家には今も勲章が残されており、それをみる限り戦功を挙げたことだってあるらしい。
「もしかしたら、ブラックさんのお父さんと僕のお父さん、知り合いだったかもね。」
「それは…あり得るか。
君の父が新人の頃は、まだ俺の父は生きていたはずだからな。」
「…じゃあ、お父さんが見つかったら聞いてみないとね。」
ブラックは薄く笑い、シロの頭を撫で、フルーツジュースのカップを奪い取って一口飲んだ。
「甘…。」
「あはは。
そういえば、ブラックさんっていくつなの?」
「21だ。」
「あ、そう、そうなの…へぇー。」
ブラックは不機嫌そうな顔をしているからか、190近い長身からか、学生時代から老けてみられることが多かった。
役職を得るのが早かったのもあり、もしかしたら警察の同僚達も、ブラックの年齢をもっと上に見ているかもしれない。
つまり、シロの様な反応は慣れていた。
「なんだ、幾つに見えた?」
「あっ、えっ、年相応に…。」
これはブラックがからかっているだけなのだが、シロは気まずく感じている。
もちろん、わざとだ。
怖い顔をしているものが、怖い人だとは限らない。
「…教官に間違えられたんだ。」
「え?」
「警察学校に12で入学してな、初登校した時、俺が教室に入ると生徒が全員起立した。」
片眉をあげ、悪戯っぽい顔でブラックは話す。
シロはその時はじめて、両親以外の大人を好きになった。




