捜査協力
ふむ、そうか、刑事がね。
ならば組織としてきちんと君の父を探してくれてると、そう思っていいようだ。
よかったね。
ブラック刑事は私も知っているが、とても優秀な刑事さんだよ。
顔は怖いけれど、子供の君には優しかったろう?
彼は存分に頼るがいい。
それに、大人でしか調べられないこともあるからね。
靴の番号を伝えても構わないよ。
もし不安なら、私もブラック刑事と会って話してみるからね。
おっと、だけれど、私と君が繋がっているのは内緒にしておこうね。
珍しい現象だし、変な邪推をされてもいけないから。
任せきりで申し訳ないけど、相談はありがたいよ。
また何かあったらすぐに言ってくれたまえ。
◆
シロは部屋を出て、ブラックへトイレへ行くことを伝えた。
シロが水属性以外の魔法を会得したのを知るのはシロ、そして魔法を共有しているパールトンだけなので、シロの母すら思惑があって時間を稼いでいるとは思わない。
トイレの中でもう一度ノートを取り出し、シロはパールトンからの言葉を確認する。
手紙には、ブラックを頼るようにと書かれており、靴の番号を伝えるのも問題はないらしい。
ダイニングへ戻り、ブラックの対面に座ったシロは、出しておいたノートを開き、それに書かれた靴の番号を指差した。
「PJ5003W…SASというブランドの靴の、裏底に押されてた番号です。
靴の色は黒…でしたけど、ここの、足の甲の部分って言えばいいんでしょうか、その部分は暗い青色でした。」
ブラックはメモをとりながら、考えている様子だった。
同じ警察の中の話なのだから、もしかしたら番号の持ち主に心当たりがあるのかもしれない。
「PJ…5003…W…か。」
「お知り合いですか?」
「そうではないのだがね。
詳しい読み取り方は教えられないが、番号の振り方にはある程度法則性があるんだよ。
だからなんとなく持ち主を想像してしまってな。
若い女性が足を失う事態になるなんて、と思ってな。」
若い女性。
ブラックは普通なら捜査情報を漏らさない分別はあるはずの男なはずなのだが、シロの意外な聡明さと、持っていた情報の貴重さ、そしてシロを子供だと侮って口を滑らせた。
勿論、父の行方を探す子供、という存在に同情をしているのもあるのだろうが。
シロはノートに書かれたPJ5003Wの文字をまるで囲い、矢印の先に若い女性と書き込んで、机の陰で魔法を行使した。
一つ情報が増えただけの事だが、それをパールトンに伝えたならば状況が一つ進む確信が何故かシロにはあったからだ。
その後もブラックは細々とした質問を続け、シロは答える。
何度か手帳を指で追ったあと、ブラックの最後の質問はすこし意外な物だった。
「この後、現場をまた見ていこうと思っているのだが…。
出来れば共に来てはくれないだろうか。
君しか正確な場所が分からないし、そんな目線で見なければ見つからない何かがあるかもしれない。
勿論、帰りは送り届ける。
必ずだ。」
シロはそれに同意して、獅子の見つめる裏路地へ同行することにした。
足が落ちていた場所。
ましてや、父がそこへ向かい失踪している。
そんな場所に再度赴くのは怖い。
しかし、見た目は怖いが優しい話し方のブラックが必ず送り届けてくれると言うなら、なんだか安心できる気がした。
「行きます。」
「ありがとう。」
シロが見せた不安げな表情からか、震えた声を聞いたからか。
ブラックが言ったシロへの礼は、子供が当たり前に大人のことを聞いたのではなく、父を探す覚悟を決めた強い意志を汲んだものだろう。
◆
家を2人で出て、並んで歩く。
すぐ戻るとブラックは話したが、それでも母は心配そうに見送りに来てくれた。
そう言って、つい先日家族が居なくなったのだから当然だろう。
「必ず送り届けますので。」
シロへの熱のある決意の言葉と同じぐらいの強さで、ブラックはシロの母へと伝えた。
ブラックはシロの母もついて来る物だと思っていたのだが、母はまだ夫が居なくなった場所へ赴くのは怖いと言って家に留まる事になった。
それを薄情だと思うことはない。
当たり前だと、そう思った。
逆にシロの強さが際立ち、再確認したぐらいだ。
シロ、君は凄いな。
ブラックはそう口にしようとしてやめた。
心から思っていることではあるが、決意を持った1人の男を褒めるのは、失礼な気がしたからだった。
「ここの路地裏です。」
「あぁ。
さっきも言った通り、来る前にも通って来たんだよ。
それにしても…今日は天気もいいのに、昼間のこの時間でも暗いな。
シロの通った夜の時間は、もう真っ暗だったんじゃないか?」
路地へ入り込むと、薄暗く、湿っぽい。
道の端には苔が生えていて、少しすえた匂いがする。
「…真っ暗…。
いえ、足だとすぐに理解出来るぐらいには明るかったです。」
シロはブラックに言われて気がついた。
確かに今のこの時間ですら結構な暗さだ。
しかし20時過ぎにここを通った時、意外と明るいと思ったのを覚えている。
前が見えないほどではない、と。
「当日…晴れていたのだろうか。
それならば、月が出ていただろうから、多少はマシだったのだろうが。」
「いえ、雨、でした。」
雨の細い路地裏。
ガス灯も届かず、窓が面して居ない路地裏。
それならばもっと暗い道であるはず。
「なのに、番号も分かるぐらいにハッキリと見えていた、と。
君の魔法は暗視系じゃないよな?」
「僕の魔法は、水です。
光る特性とかもない、普通のお水。
あ、飲用可能証明書を持ってるので、それで分かると思います。」
水属性のシロではあるが、生み出す水の特性もまたそれぞれで、成分によっては飲用が不可となる。
例えば口に含んですぐに飲用不可と分かるのならば大きな問題にはなりにくいのだが、長期的に飲用し続けると健康被害が起きる様な場合もあるので、水を検査に出し、飲用が可能だという証明を得ることが出来る。
そうすれば就職先が見つかりやすかったりなど、有利な点があるのだ。
国から発行される物なので偽造も考えにくい。
証明書を受け取り眺めながら、ブラックは笑った。
「自分では喜びにくかったかもしれないが、親御さん、喜んだろ。」
「え?」
「あぁ、いや、水属性って学生の間で人気がある魔法属性ではないが、息子の魔法で親孝行をしてもらうというのが夢、なんてのはよくある話だからな。
火属性の息子に風呂を沸かしてもらうとか、雷属性の娘に肩こりを癒してもらうとか。
その中でも、一番分かりやすいし、尚且つ人を傷つけにくい属性だからなぁ、水は。
親としては嬉しかっただろうと思うよ。
なんか、神様に息子が優しいやつだって認めて貰えた気になるし。
親父さん、楽しみにしてなかったか?
お前の水で酒を割るのを。」
「そんな感じのことを言っていました。」
「そうか、じゃあ何としても見つけ出さねぇとな。」
ブラックがシロの頭をくしゃくしゃと撫でる。
色々な感情がない混ぜになったシロは涙が出そうになるのを堪えた。
その分、お腹の下の方に力が溜まる。
「僕、父さんに会いたいです。」
「おう。
じゃあまず、教えてくれよ。
お前がここで何を見たのかを。」
シロはノートを取り出し、ブラックの印象と父を探す決意を書き込んだ。
それを見るであろうパールトンに頼ろうと思ったわけではないが、なんとなく強く覚えておこうと思ったのだった。




